Ⅰ「召喚されたら魔王城でした。」
アルファポリス様にて投稿させて頂いている作品をこちらにも載せていこうも思います。
アルファポリス様にて投稿→翌日小説家になろう様で投稿という流れになります。
「私の配下となり、勇者を討伐せよ」
目の前で周囲より高くなった場所にある豪華な椅子に、それは優雅に脚を組んで座っておられる御仁。
端正な顔にスラリと伸びた四肢、滑らかな艶のある黒髪。
漆黒の瞳は、威厳と畏怖を対面する者に与えそうな深みがある。真っ直ぐに向けられる視線に、目を逸らす者もいるに違いない。
そして厳かに告げられた言葉に、無条件にも頷く者だっているだろう。
「いや無理」
まぁ、私には関係ないけど。
広すぎる部屋の中には彼以外にも多くの存在があったけど、シーンと完全に沈黙。というか唖然とした空気が流れている。
え? イケメンは好きだけど何でも言う事聞く程ではないというか。
別に睨まれてるわけでもない視線に、怯えるような可愛げも持ち合わせておりません。睨まれたら怯えるかと聞かれれば微妙だが。
「な、何たる無礼か!」
目の前に座っている男の傍に立つ、立派なヒゲを生やしているオジ様がフルフルと震えながら怒鳴ってくるけど、それも無視。
というか、ここはどこなのでしょうね。
学校に行こうと普通に歩いていたはずなのに、いきなり目の前が真っ白になったと思ったらここに居た。
これは、アレだろう。世に言う「勇者召喚」とか「巫女召喚」とかいう異世界転移なのだろう。
そう思っていたら、まさかの告げられた言葉が「勇者討伐」。
あれ? そうなると目の前のこの偉そうな男の人は?
「魔王様のお言葉を拒否するなど! 無礼であるぞ娘!」
おおう、まさかの魔王サイドに召喚されたようです。予想外。
しかし、だからあんなに偉そうなのかと納得。
そして、周囲にいる人達の頭に見事な「ツノ」が生えている理由も納得。
ならここは魔王城かなんか? 無駄に広いこの部屋は謁見の間とかかな。確かにあの魔王様ってのが座ってる椅子は玉座っぽい。高そう。
「おいっ、聞いているのか⁉︎」
「え、すみません。聞いてませんでした」
正直に答えると顔を真っ赤にして睨みつけてきました。オジ様、そんな若くないだろうから血圧あげないの。
ヒゲのオジ様だけでなく、謁見の間(仮)にいる人達から不穏な空気が流れ出した頃、それまで黙っていた魔王様が口を開いた。
「随分と落ち着いているな」
「えぇ、まぁ」
異世界転移するのは初めてだが、そういったジャンルのラノベが大好物だったもので。
そして大概の話では、元の世界に帰る方法はない。
なら焦ったり慌てたりする意味がない。体力の無駄。
元の世界に未練が無いかと言われれば、無いわけではないが無理に帰ろうとも思わない。そんなレベル。
「無理、と言ったな。『出来ない』ではなく」
「そりゃ、呼ばれた途端に『勇者討伐』なんて無理に決まってますよ。勇者って、アレでしょ? 魔王を倒す為のハイパーな生き物でしょ? そんなのに私みたいな何の力もないような人間が敵うわけないじゃないですか」
「ほう…つまり、勝算があればやる、と?」
「もちろん、私がしっかりと納得できる理由があればですけど」
何の説明もなく喧嘩は売れません。
しかも勇者となれば、ひいては敵は私と同じ人間。
「人間の私が、貴方達の味方として戦う理由なんて今現在皆無です。というか、いきなり異世界に連れて来られた以上、貴方達に対する私の評価は最底辺ですね」
「ふむ、一理あるな」
「魔王様っ⁉︎」
私の言い分に納得と頷く魔王様を、周囲の人達が驚愕した顔になる。
おー、雰囲気的にもっと偉そうな、強いて言えば話が通じないような人かと思ったけど、意外と話せるじゃないか。
スッと優雅に脚を組み替え膝の上で両手を合わせた魔王様は、面白いものを見るような視線を私に向けた。
「ならば、お前は勇者側につくと?」
「どちらかと言えば、その方が私の為ですよね」
「そうすれば、今ここでお前を殺すと言ったらどうする」
「どうぞ? 無理やり勇者討伐なんてやらされても、無駄死にになる結果が見えるので。遅いか早いかの違いです」
「……くくっ、愉快な奴だ。この私を前にして、そうもハッキリと己の意思を口にするとはな」
楽しげに口元に笑みを浮かべる魔王様は、徐にに立ち上がると階段を降り私の側まで歩いてきた。
「お前、名は」
「千里です」
「ではセンリ、然るべき説明をもって、改めて勇者の討伐を頼むとしよう。しかし今日はもう休むが良い。部屋を用意させよう」
「魔王様⁉︎ このような得体の知れない、それも我らに敵対するやもしれん者を城へ残すというのですか!」
「その『得体の知れない』者を呼んだのは我らだ。私は最初に言ってあったはずだが? 『召喚された者は丁重に扱え』と」
「しかしっ」
「私にこれ以上、同じ言葉を繰り返させるな」
その一言で、声を上げたヒゲのオジ様は怯えた表情で黙ってしまった。騒ついていた周囲も一気に静まり返る。
彼らに向けていた視線を私へと戻した魔王様は、それは優雅に一礼してみせた。
「それでは、また」
そう言い残し、彼は身を翻し玉座の後ろにあった通路へと消えていった。