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第九話 生田亭にて。

「なぁ……永久(とわ)……」


「なんだ、始よ」



生田亭の定食をつつきながら俺は永久に問いかける。




「お前、何で世界を滅ぼそうとしたんだ?」


「くっ……それを誰に聞いた」



まるで掘り起こされたくない黒歴史を掘り起こされたかのような顔をして永久は問うてくる。

なんだ?

そんな触れられたくないことだったのか?



「桜花先生から」


「フ……あの人間の小娘か……今度会ったらお灸を据えてやらねばならんようだな」



箸が今にも折れそうな音で軋み音を立てる。

おい、生田亭の箸は割り箸じゃないんだからな?

間違っても折るんじゃねーぞ?

しかし俺はどうやらいらんことをチクってしまったようだ。

あー……俺、あのアホ教師に体罰受けるんだろうなぁ……。

日本じゃ禁止されてることも平気でやりそうだもんなあのアホ教師。



「で、何で世界を滅ぼそうとしたんだ?」


「……気にくわなかったからだ……」


「は?」


「気にくわなかったのだよ……この世界の成り立ち全てがな」



この世界の成り立ち全てが気にくわないってなんじゃそら。



「そんな高尚なこと言われても訳わからんぞ」


「ならばもう少し分かりやすく説明してやろう……。私は『輪廻の守護者』として神によって生み出され、来る日も来る日も生きとし生けるもの全ての輪廻を繰り返した……。それに比べて、私の対となる『(とき)の番人』として生み出された刹那は全ての刻の流れを監視し続けるだけの悠々自適なお気楽生活だ」



おい……なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?



「そしてある時、私は思ったのだ。同じ格の天使として生み出されたのにこの差は何だ。刹那の方が圧倒的に楽しているだろう。ならば繰り返される輪廻が終われば私もこんな生活から解放される……とな」



目を閉じて俺に講釈を垂れるように偉そうな立ち振る舞いで永久はそう述べる。



「……」


「フ……やはり人間ごときに私の考えなぞ理解が及ばぬか」


「理解が及ばねえって言うか……それってただの職務放棄なんじゃねーの?」


「……そうとも言うな」


「……心底くだらねー理由で世界が亡びかけてたのな!」


「心底くだらぬとはなんだ!私にとっては重要な事だったのだぞ!」



珍しく感情を露わにする永久に俺は目を丸くする。

ていうかこんな永久は初めて見たな。



「まぁ……なんだ……天使ってのも大変だったんだな」



言いながら定食の魚を摘まむ。

魚に塩が程よくまぶされていて舌触りが良い。

相変わらずうめーなここの和食は。



「なんやなんや。そないな理由でお前は陽花(ひはな)はんを殺しかけたんか?」



ピンク髪の色をした女亭主がお茶を俺達のテーブルに置かれた茶飲にお茶を注ぎながらそう告げる。

名前は確かヒルノの親のヒルコさん……だったか。



「う……その件は悪いと思っている……すまなかった」



ヒルコさんの啖呵に気圧されたのか永久はしょんぼりとした顔で謝る。



「陽花って誰だ?」


陽依(ひより)とサクラの父ちゃんの事やで」


「ああ……そういやそんなこと言ってたなサクラのやつ。その陽花って人がタカマガハラ第2位なのか?」


「なんや、もうそないなこと知っとるんかいな」


「ひよりの特殊な力ってのも見せてもらったからな」


「あー……あの神童か。陽花の娘とは思えん位の神童っぷりやからなぁ……恐怖の殺戮少女とかいわれてたのが懐かしいなぁ」



なんだその恐怖の殺戮少女って。

陽花って人はそんな危険人物なのか?

というか少女か。

それってつまり。



「陽花って人も女なのに『パパ』なんだな」


「せやで。ついでに言うならウチもヒルノのパパやぞ」



さいですか。

一体何なんだよこの国は。

刹奏(せつか)にしろひより達にしろヒルノにしろ男の父親が全くいないじゃねーか。

この国の女共は男に全く興味はありませんってか。

別にいいけどよ。

しかしよくよく考えたら日本も似たような感じだったな。

アニメや漫画じゃやたら百合がもてはやされてたし。

百合雑誌なんてもんもあったよな。

かくいう俺も百合漫画?ご馳走ですな人種だしな。

しかしホモ。

あれはダメだ。

絶対それだけは譲れないラインだ。

男に掘られるとか想像するだけで身の毛もよだつ。

この国には女を男にする薬があるという事は。



「ヒルコさん、もしかして男を女にする薬ってあります?」


「ん?妙な事聞くやっちゃなぁ……。んなもんあるに決まってるやろ」


「ですよねー……」


「なんやあれか?ヒルノか薙っちに惚れたんか?」


「んなわけあるかっ!」



ヒルコさんに唾を吐きかける勢いで全力否定する。

ホモだけは勘弁してくれええええええ。



「まぁヒルノを恋人にしたかったら相当がんばらんといかんけどな」


「大丈夫だ、そんな心微塵もねーから」


「それはそれで親としては複雑やなぁ」



ニヒヒと笑いながらヒルコさんはカウンターの奥へと去って行った。

……無いよな?俺。

絶対ホモの沼にだけはハマるまいと心に強く誓う俺だった。

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