第六十八話 あと一週間
今日も今日とて俺はテナに呪言を浴びせかけられていた。
「だーかーらー……天地開闢はやめろっつってんだろうがああああああ!!」
「でも始さんは平気じゃないですか」
「それでも効果打ち消すだけで精一杯なんだよっ!!」
実際の所はそういうわけでもないんだが、そう言っておかないとこいつは何しでかすか分かんねーしな。
テナは首肯するとこんなことを言ってくる。
「でも始さん、初めて戦った時より全然余裕ありますよね。何か修行でもしたんじゃないんですか」
「……」
こういうとこも聡いんだよなぁ……。
その辺、薄々、陽依も感づいてるくさいんだよな。
「まぁいいです。私が本気を出せば済むことですから」
言いながらテナは片手に神剣・天叢雲剣を召喚する。
そして。
「祖たる原初の五精霊よ、我が神命に応えよ。そして我が力と成せ。時の流れを打ち砕き、新たな理の下に力を示せっ!!!刹化瞬永!!!」
テナは時止めの呪言を発動させる。
そして止まった時の流れの中で俺に向かって剣を上段から一閃。
しかし俺は難なく天地神明刀で受け流し、天叢雲剣をテナの手から弾き飛ばす。
「……やっぱり」
テナは時間を再度動かしながらそう呟く。
分かってて試しやがったなこの野郎。
「なんとなく、そんな気はしていました。『刻の番人』と対を成す『輪廻の守護者』なら止まった時の中を動けるんじゃないかと」
「まぁな……」
しかしコイツ、妙に俺の事情に詳しいんだな。
永久の奴から聞いたんだろうか。
まぁいいか。
「それで?今日はこの辺で終わりか?」
「そうしましょうか。始さん。私疲れたんで神楽耶で何か奢ってくださいませんか」
「なんで俺がお前に奢らにゃならんのだ」
「いいじゃないですか。私、これでもあなたより歳下ですよ?」
「そりゃあ、そうだけどよ……」
それを言ったら、陽依やテラス様だって俺より歳下なんだけどよ。
「それでは参りましょう、始さん」
結局テナにごり押しされてカフェ神楽耶のティーセットを奢る羽目になるのだった……げふん。
ティーセットを美味しそうに頬張るテナをぼんやりと見つめながら俺は物思いにふける。
こいつ、大人しくしてれば可愛いんだよなぁ……。
整った顔立ちに艶のある長い髪。
そしてスラっとしたスタイル。
……割とイケてるよな。
パコン。
背後から食器で誰かに叩かれた。
サクラだ。
潤んだ瞳で俺を睨みつけている。
あー……コイツまた俺の心読みやがったな。
「おまえも人の心読むなよ、そんな顔するくらいなら」
ため息をつきながらサクラにそう問いかける。
「私は……決してそんなやましい気持ちで始さんの心を読んでませんっ」
「じゃあどうしてそんなに気にしてんのよ」
「それは……あと一週間で約束の日ですから」
「約束の日……」
って何だっけ。
「始さん……本気で言ってるんでしたら、さすがの私でも怒りますよ?」
にこにこ笑顔の中に絶対的な負のオーラが垣間見える。
これは答えをミスったらあかん奴だ。
「……ちょっと待て。今思い出す」
約束……約束……。
うーん……なんだっけ。
俺の正面ではテナがクスクスと笑いを堪えている。
その笑いが更にサクラを刺激したのかますますサクラの負のオーラが濃くなっていく。
あー……駄目だ。
何の約束だか思い出せん。
バチコーン。
俺はサクラにおもいっきり食器でぶん殴られて、意識が遠のいてしまう。
あー……マジで約束って何だっけ……。
そう思いながら、俺は意識を失うのだった。
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