第六十五話 私のいる場所
目を覚ますと私は始お兄ちゃんの腕の中で眠っていた。
そして何かふかふかなものに包まれている。
なんだろう、これ。
「おい、刹奏。目を覚ましたか?」
「あ……うん……」
起き上がろうとして気付く。
背中がいつもより重いという事に。
背中に何かある。
肩甲骨のあたりに力を入れてみる。
バサッバサッ。
空を切る音を立て私の体は宙を舞う。
「おい刹奏っ」
慌てる始お兄ちゃんの声は遥か眼下。
私は。
私は背中にある何かで空を舞っていた。
私は肩から背後を伺うとそこには一対の白い翼。
真っ白できれいな一対の白い白い翼。
私はそれを羽ばたかせ空を飛んでいた。
一陣の風が頬を薙ぐ。
心が洗われるような、気持ちいい風だ
「おーい、いい加減降りてこいーーーーー」
っと。
いい加減、下に降りないと始お兄ちゃんが心配する。
私は背中の羽をバタつかせ下へと急降下。
「ちょ、おまっ」
ゴチンと音を立てて私と始お兄ちゃんは頭をぶつけてしまった。
痛い。
めっちゃ痛い。
私の頭突きをもろに受けてしまった始お兄ちゃんは目を回している。
「どうやらお前は真の『刻の番人』に覚醒したようだな」
「どういうことです?永久さん」
私は永久さんの言葉に問い返す。
「その白い翼、まさしく『刻の番人』の証だよ」
「そう……なんですか」
『刻の番人』……お母さんが天使だった頃の役職。
私は人間ではなくなってしまったという事か。
まぁ……良いかな……それでも。
私は私なのだから。
人間でもそうじゃなくても私は私だ。
「さて。刹奏。うちへ帰ろうか。刹那が待っている」
優しく、母の様な優しい声で囁くように。
永久さんの声が私の心に流れ込んでくる。
「はいっ」
私は元気にそう告げるのだった。
それから後は大変だった。
家に帰ったら奏さんにはわんわん泣かれてしまうし。
お母さんにも羽をさすられながらずっと抱きしめられていた。
私はこんなにも両親に心配をかけていたんだな。
本当に。
ごめんなさい、奏さん、お母さん。
心配してくれてありがとう。
そして、離れたところから私を見つめる一人の少女。
灯花ちゃんだ。
普段にこにこ顔の灯花ちゃんの両目からは溢れるように涙が流れていて。
ああ……私はこんなにも心配をかけていたのか。
ごめんね。本当にごめんね、灯花ちゃん。
「ただいま。灯花ちゃん」
「うん。おかえり、刹奏ちゃん」
「……この羽、変かな?」
自分の白い翼を触りながら灯花ちゃんに問うてみる。
「ううん。刹奏ちゃんに似合っててすごくかわいいよ」
「そっか……」
すごく可愛い……か。
本当にそう思っててくれたら嬉しいな。
……あれ……何だろうな。
この感情。
今まで感じたことのない感情に包まれながら。
私は自分のいる場所に帰って来た。
私の本来いるべき場所へ。
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