第五十七話 傷跡
さて、そんなやり取りを救護室でした後。
俺はのんびりとカフェ神楽耶で皆が来るのを待っていた。
紅茶片手に授業をさぼって優雅に紅茶をたしなむ俺。
傍から見たら結構イケてね?
「授業さぼってる時点で全然イケてないですよ、始さん」
そう突っ込みながら現れたのはサクラだ。
サクラの思考読みによる突込みは的確過ぎるから正直ぐうの音も出ない。
「まぁいいじゃねえか。他の連中はどうした?」
「じきに来られると思いますよ。私もおやつを買ってきますね」
「おう、行ってこい」
サクラが去った後、順にヒルノ、薙、灯花、陽依が現れる。
「はぁ……今日の授業もしんどかったなぁ」
ヒルノは寝そべりながらサクラが買って来たクッキーを頬張る。
「それにしても今朝の陽依さん凄かったですね。圧勝だったじゃないですか」
「ふふん、まぁね。私の手にかかればこんなもんよ」
薙の言葉に鼻高々の陽依。
一週間前はフルボッコにされたんだけどな。
それはいわぬが花か。
「私もスッキリいたしました。これで何の心配もいりませんね」
灯花も薙に続いて自分で持って来た紅茶を飲みながら呟く。
「あー……その事なんだけどな……」
「その続きは私から言おう」
俺が言いかけた時、言葉を遮るものが居た。
テナ、その人だ。
「お、またやるっての?テナ?いつでも勝負になるよ?」
今朝の一戦から調子に乗っているのか陽依はいつになく好戦的だ。
まったくこいつにも困ったもんだ。
「おまえは、ここを出禁になりたくなかったらやめろ」
ただですら一週間前のことで目を付けられてるというのに。
って、言ってる傍から周りの学生たちが距離取り始めてんじゃねーか。
「そうではない。うー……あの……私は……」
かける言葉を選ぶように。
おずおずと。
今までのテナからは考えられない程、弱気な。
それでいて相手を魅力するような表情でテナは告げる。
「私は……姉様たちに構って欲しかった!ただそれだけなんだ……」
「……はぁ?……姉様?」
虚を突かれたように変な声を出す陽依。
他のメンバーも泡を食ったような顔をしている
まぁそういう反応になるわな。
「すみませんでした、姉様方。勝手な言い分かと思いますが……これからは仲良くしてください」
「……何、勝手なこと言ってんのよ」
その言葉に真っ先に反応したのは誰あろう灯花だ。
いつも学園で使ってるお嬢様言葉じゃない。
怒りに。感情に任せた言葉。
「私はっ!!!私はあなたを絶対に許さない!!!!」
そう言って飲みかけのアイスティーをテナにおもいっきりぶちまけスタスタと去って行く。
「おい、灯花っ!!!」
俺は慌てて、灯花の後を追おうとする。
「まぁ……そうよね。灯花の気持ちも分かるわ。復讐するだのなんだの言っておいて、敵わないと思ったら仲良くしてくださいなんて、虫のいい話よね」
「私も同じ気持ちです。テナ様、御自分のなさったことをもう一度お考えくださいませ」
陽依とサクラもその場を立ち上がり連れ立って去って行った。
「陽依……サクラ……」
「んー……わからんこともないけどな。でも刹奏の自我がもどらない。それはワイらにとっては何より許せんことなんよ。すまんな、お姫様」
「ごめんね、テナ様。そういうことなんだ」
ヒルノと薙も一緒にその場を離れて行った。
残されたのは俺とテナの二人のみ。
テナの服は灯花に浴びせられたアイスティーがシミになりかけていた。
「ふ……はははははは……そうだな。その通りだよ」
天を仰ぎ笑いながら。
溢れでる涙を堪えながらテナは叫ぶ。
「テナ……」
「私は姉様に復讐すると誓った。そうそれしかもう私には残されていないんだっ」
「おまえ、そんなんで本当にいいのか」
ハンカチを手渡しながら俺はそう告げる。
「しょうがないであろう?それが姉様達の意志なのだから……」
はぁ……めんどくせーやつだな。
どいつもこいつも。
これは俺がどーにかかせにゃならんのか。
「テナ……おまえは本当はどうしたいんだ」
「出来るなら、私は……姉様たちと……仲良くしたい……。それが出来ぬのなら……」
「わかった。お前の望み、叶えてやるよ」
「……何故、貴様は私にそんなに協力的なのだ。私はお前の腕を斬り飛ばしたのだぞ?」
さあな。
なんでだろうな。
でも年下の女の子が困っているのを放っておけない。
例えそれが俺の腕を斬り飛ばした相手だとしてもだ。
それが男ってもんだろう?
たぶん、そういうことだ。
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