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第五十六話 悪役令嬢のワケ

「おまえは私のことを笑いに来たのか?」



着崩した服を綺麗に身に纏い、居住まいを正したテナはいつも通りの高圧的なテナそのものだ。

横の椅子にはニマニマと含み笑いをするアカリ先生が座っている。



「いいや、そんなもんじゃない」



かぶりを振りながらそう答え。



「どうして、そんなにもおまえが陽依(ひより)やサクラを憎むのかと思ってな」



直球真っ向ドスレートに質問を投げかける。

テナは視線を逸らし逡巡した後ポツリポツリと言葉を紡ぐ。



「私は……私は……」


「テナちゃんテナちゃん、言っちゃいなよ。こいつは中身オッサンだけどそこそこ信用できる奴だよ」



そこそこってなんだよ、そこそこって。

それに中身オッサンってのは余計だ。

テナは一度「ムー」っと唸ったのちこう小声で言葉にした。



「私は、陽依やサクラに構ってほしかったのだ」


「……は?」



今、何て言った?

構ってほしかったとか聞こえた気がするが。



「あー。よく聞こえなかった。もう一度ヨロ」


「私は、陽依やサクラに構ってほしかった!それだけだっ!!」



啖呵をきってテナはそう告げる。

隣ではアカリ先生がプクククと思い切り笑いを堪えている。

おいおいおいおいおいおい。

じゃあ何か?

今までの襲撃やら復讐やらって陽依やサクラに構って欲しさにやったってのか?

それにしちゃやりすぎだろう?



「俺なんかおまえに腕を切断されちまったんだが」


「悪かったと思っている」


刹奏(せつか)なんて自我崩壊しちまって、そのまんまなんだが」


「それは本当に申し訳ない事をしたと思っている」



普段の高圧的なテナからは考えられない程、弱々しい表情でそう告げられると調子が狂う。

はぁ……事実は小説も奇なりとは言うけれど、本当にしょうもねえ理由だったんだな。



「んで、おまえ、これからどうすんの?」


「陽依やサクラに構ってもらいたいから復讐は続ける」


「小学生の発想かよっ!!!」



頭痛くなってきたわ本当に。

こいつの脳みそ幼児レベルか?



「同じ姉妹なんだから手に手をとって仲良くやっていけないわけ?」


「チッチッチ。それができたら苦労はしないんだなぁ……」


「なんでだよ、アホ教師」


「そもそもテナちゃんはこの国のお姫様。そしてパパは陽花(ひはな)ときたもんだ。生まれた順から行くと陽依ちゃん、サクラちゃんのが義理だけどお姉さんにあたるわけよ。それがどういう意味か分かるかな?」


「何でそこでそれが出てくるのか、ようわからん」


「頭悪いと思ってたけどここまで悪いとは思わなかったよ」



嘆息しながらアカリ先生は続ける。



「つまり正規のお姫様に異母姉妹とはいえ二人の姉が居るって発覚するのはあまりよろしくない事だって言いたいんだよ」


「……別に良いんじゃねーのか」



陽依達が皇女の血を引いてるわけでもないし。



「それがむずかしいところだよねぇ。テラス様の政権の基盤は必ずしも盤石じゃない。そんな所に娘はどこぞの知れぬ日本人の第三子でしたなんて発覚しようものなら反テラス派に恰好のエサになってしまう。だからあくまでテナちゃんが陽依ちゃんやサクラちゃんに構ってもらうにはこの方法しかなかったと。そういうわけだけよ。」


「アホクサ。仲良くしたっていいんじゃねーの。何で親の立場なんて気にしなきゃなんねーんだよ。そんなの知った事かよ」



俺の言葉に一瞬ポカンと口を開けていたアカリ先生は突如笑い出す。



「はははははははは。良いね良いね、その発想。自分たちの為なら周りなんてしっちゃこっちゃないか。それは考えもつかなかったな」


「だってそうだろう?自分の人生は自分の人生だ。親の立場に左右されて生きるようなもんじゃねーだろ」



俺の言葉を聞きテナはポツリポツリと語りだす。



「私は……陽依やサクラと……いや、姉様たちと仲良くしても良いのか?」


「陽依やサクラが許してくれるならな。それはあいつら次第だが」


「そうか……そうだな」



そう呟いたテナの顔は何処か晴れやかで。

つきものが落ちたとはこういうことを言うんだろうなと、俺は思った。

感想頂けたら嬉しいです。

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