第五十五話 決着
勝負は陽依の勝利ということで決着した。
それにしても最後に陽依がみせたあの力は何だったのか。
首を締めあげられていたテナは教員が担いだ担架に乗せられて救護室へと運ばれていった。
陽依は自分でも実感がわかないのか特殊戦闘服を脱ぎながら神妙な顔をしている。
「それでは、勝利者インタビューを行いましょう、陽依選手、どうでしたか?」
「何かいまいち、実感わかないって言うか……うーん……」
「だそうです。解説の始君、何か一言どうぞ」
「いや、もう解説必要ねえだろ……」
俺は呆れながらそう答える。
「まぁいいや。以上、勝利者インタビューでしたーーー。それでは次回の開催をお楽しみくださいっ」
次回があんのかよっ!!!
もうこれっきりにしてくれんもんかね……。
あのお姫様もこれに懲りて復讐する考えを改めてくれればいいのだけれど。
そう願うばかりだ。
祭りの後。
観戦していた生徒達が去って行く中、陽依が俺達の元へと戻ってきた。
「お疲れ、陽依」
「お疲れ様です、お姉様」
「おつかれ、ひよ姉」
俺達は口々にねぎらいの言葉をかける。
しかし陽依はいまだに何か神妙な顔をして何か考え込んでいる。
「どうした?陽依?」
「ちょっと試したいことがあるんだけど。始、いいかな?」
「なんだ?」
「ていっ!!」
陽依の言葉と共に俺に向けて陽依の掌から岩礫が射出される。
いたっ、痛いっ、いてええええええ!!
「何しやがるっ!!!」
「あー……やっぱりかぁ」
なにがやっぱりだ、この野郎。
自分一人で納得しやがって。
「おー……。これは便利かもしれない。うん」
「何言ってんだよ、おまえ」
「つまり。こういうことだよ」
言葉と共に一瞬にして俺は陽依に背後を取られて腕を捻られていた。
「だから、いてえって言ってんだろ!!!」
「あははは。ごめんごめん。でもさっき絞めるっていったからそれを実行しただけだから」
まぁ確かにそんなこと言ってたな。
華麗にスルーしてたつもりだったんだが。
「で、何がどういうことなんだ?さっきから呪言も使わずにカムイを使ってるみたいなんだが」
「あんた、頭お花畑なの?」
お花畑じゃないわいっ。
失礼なやつだなおい。
「いや、今の見てわからんと、頭悪いでホンマ……」
「ですね……。お姉様、すごいです」
ヒルノとサクラに口々に言われ俺は何が何だか。
なんかとてつもなくやばい事をしているのは直感でわかるのだが。
「つまり……私は呪言を発動するイメージさえすればカムイを操れるようになったって事よ」
「……呪言を使わなくてもか?」
「そ」
「口塞いでても使えるって事か?」
「そうなるね」
「……化け物め」
「……焦げろっ」
陽依の言葉と共に俺の足元に火がつく。
熱っ熱いっ。
「熱いわっ!!!」
「いやー久しぶりに気分いいわ。これならあのテナにも負ける気全然しないね」
「そーだな……」
普通、カムイは自分が登録してあるカムイのカードに力を込めて、その力を解放するという手順で発動する。
今までの陽依やテナの場合は、そのカードを解せずに呪言を用いてカムイの力を発動していた。
しかし今のこいつはそのどちらでもない。
呪言をイメージするだけで、カムイの力が発動する……か。
もう本当にこいつは何でもありだな……。
「さてさて。気分も良いことだし、さっさと授業受けに行こうかな」
「おう、行ってこい、行ってこい」
「あんた達も行くのよ」
「んー……俺はちょっとサボるわ」
ちょっと気になることがあるしな。
「まぁ別に良いけど。じゃあいくわよ、サクラ、ヒルノ」
「はい」
「ほななー」
三人が校舎の方へ去って行った後、俺は三人とは別の建物に向かって歩を進める。
目的地はテナが運ばれていった救護室だ。
―――
コンコンコン。
救護室のドアをノックする。
ガラリ。
「ちょっと邪魔するぞ……ってうわああああ!!」
引き戸を開けた目の前には上半身裸体のテナの姿があった。
俺の顔を見てテナは目をパチクリさせている。
俺はその美しい体つきに目が離せず石化してしまった。
そして。
「きゃああああああああああああ!!!」
声に弾かれるようにして俺は慌てて回れ右をしてドアを閉める。
それにしてもなんだよテナの奴。
『きゃあ』とか柄じゃないだろう?
バクバクと跳ねる心臓の鼓動を抑えながら俺は再びドアをノックする。
コンコンコン。
「どうぞ」
ガラリ。
そこには顔を真っ赤に染めたテナの姿。
その脇にはニヤニヤとした笑みを浮かべるアカリ先生が立っていた。
「いやー、始も隅に置けないねぇ。今日日ラッキースケベとか流行らないよ?」
うるさいわ、アホ教師っ。
やりたくてやったんじゃねえよ!!
心の底で俺はそう毒づくしかなかった。
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