第四十七話 vs
夕焼け空が沈む頃。
俺とサクラと刹奏は陽依と待ち合わせる為にカフェ神楽耶でくつろいでいた。
流石にこんな人が大勢居るような場所では襲われないだろうと鷹をくくっていたからだ。
ふいに絹を割くような悲鳴が響き渡る。
声のする方向を見やるとボロボロになった少女を引きずって歩いてくるテナの姿があった。
その姿を見て生徒たちは散り散りになって逃げだしていく。
「フ……ここの生徒も教師も大したことないな」
笑みをこぼしながらボロボロになった少女を俺達の方に放り投げてきた。
ドサリ。
俺達の足元に無造作に転がる少女。
それは完全に意識を失い血まみれになった陽依の姿だった。
「お姉様っ」
「陽依お姉ちゃんっ」
二人は慌てて転がる陽依に駆け寄る。
「……てめえ……。我が呼び声に応えよ、そして我が力と成せ、天地神明刀!!」
俺は溢れる怒りを抑えきれず天地神明刀を呼び出す。
「さて……次はサクラの番なのだが……どいてはくれんかな。愚民共よ」
「誰がどくかよ!!お前は絶対に許さねえ!!!」
俺はそう叫ぶとテナに向かって駆けだし天地神明刀を横薙ぎに一閃する。
「フ……。そうか。ならば私も愚民の相手をしてやろう。神剣・天叢雲剣よ、わが手に宿れ!!」
テナは俺から距離をとりながらそう告げると右手に剣が現れる。
「さて、楽しいダンスとしゃれこもうじゃないか」
フフリとテナは笑うと俺に向かって剣を振るう。
俺はその剣を弾き返すと右脇に一閃し相手の出方を伺う。
テナは俺の俺の刀を弾き、その勢いで首に向かって渾身の突きを放ってくる。
「くっ……」
俺は胴を捻らせ、テナの突きをかわすと同時に返す刀でテナの首を狙って刀を振りぬく。
薄皮一枚を切る感覚。
テナの頬からは血がしたたり落ちていた。
「フ……愚民の分際でやるではないか」
「あんたも、お姫様のわりには剣になれてるんだな……」
正直、勝てるかどうかは半々ってところか。
永久程とはいかないがなかなかの使い手だ。
しかも相手には呪言がある。
それを併用されたら正直勝ち目は薄い。
周囲は俺達の戦闘で机やいすが散乱していた。
俺が次の一手を繰り出そうとしたその瞬間。
「恐れながら、姫様。どうか、どうかもうこのような事はおやめくださいませんでしょうか」
サクラが陽依を抱いて震える刹奏の前に出てそう進言してくる。
「フ……私の足元に膝まづいて許しを請えばお前は見逃してやるぞ、サクラよ」
「それでお姉様の事も許して下さるならば喜んで」
「ハハハハハっ。お前は面白いことを言う。ならばやってみるがいい」
「姫様の仰せのままに」
サクラは物怖じしない目つきでテナの前に跪き許しを請う。
俺はその様子をただ見ていることしかできなかった。
これがサクラの決めた事なら止めることはできない。
そう思ったからだ。
「フっ……フハハハハハハ」
不意に高笑いがカフェ神楽耶中に木霊する。
「許すわけないだろう……祖たる原初の土霊よ、馳せ来たれ。そして我が呼び声に応えよ、乱岩弾!」
「きゃっ……」
「サクラちゃん!!」
俺は岩礫で吹き飛ばされたサクラを抱きとめ刹奏のもとへと連れていく。
「ごめんなさい、始さん……」
「おまえ……!」
「フン……。私の舐めた辛酸の日々に比べればこの位安いものであろう?」
「そんなの知るかよっ!!」
「まぁいい、今日はこの辺にしといてやる。また襲われる恐怖に震えながら学園生活を送るがいい」
言いながらテナは背を向けて去って行こうとする。
「そんなこと、俺が許すわけねーだろうがっ!!」
「愚民に許してもらう必要などないわっ!!!祖たる原初の水霊よ、馳せ来たれ。そして我が呼び声に応えよ。暴水刃!」
テナの呪言が完成すると共に水の刃が襲い来る。
俺はその水の刃に向けて天地神明刀を掲げその力を無効化させた。
「ほう……それが天地神明刀とやらの力か?」
「こっちの手の内はお見通しか……」
俺は口角を引き上げ無理やり笑みを作る。
「フ……ならこれはどうだ。祖たる原初の火霊よ、土霊よ、我が問いに応えよ。そして我が力と成せ。火岩弾っ(かがんだん)!」
テナの呪言が完成すると今度は火を纏った岩の塊が襲ってくる。
迫りくる炎の岩に向かって一閃、二閃、三閃しその力を無効化させていく。
「ほう。これも防ぐか。ならばこれはどうだ。「祖たる原初の五精霊よ、我が問いに応えよ」
「刹奏、サクラ。離れてろ」
俺の言葉に刹奏とサクラはいまだに意識を取り戻さない陽依を抱えて距離をとる。
……予想はしていた。
恐らくこの呪言も使えるだろうという事を。
「そして我が力と成せ。空の静寂打ち砕き、新たな理の下に力を示せっ!!!天地開闢!!!」
天が震え、地が揺れる。
俺は天地神明刀を一閃し天を沈め、二閃目で地を沈める。
そして迫りくる雷光を刀身に受け完全に受け流す。
「フム……人の身でこれを防ぐとは大したものだな」
「こっちとしてはもう勘弁してほしいんだがな。なぁお姫様」
「フン……そう言われて引き下がれると思うか?」
テナは剣を手に構え新たな呪言を紡ぎ始める。
「祖たる原初の五精霊よ、我が神命に応えよ。そして我が力と成せ。時の流れを打ち砕き、新たな理の下に力を示せっ!!!」
天地開闢以外の五精霊の呪言か?これは。
こんな呪言を俺は知らない。
今までに陽依もこんな呪言を使った事がないからだ。
だからこの呪言がどんな効果なのかすら想像がつかない。
「刹化瞬永!!!」
その声が響くと同時に俺の腕は斬り飛ばされていた。
「う……嘘だろ……」
うめき声にならない声を上げながら俺は崩れ落ちる。
何が起こったのか、何をされたのか。
まるで見当がつかない。
ただ声がしたと同時に腕が切り飛ばされていた。
「くっ……」
「フ……ハハハハ……哀れだな、愚民。この私にたてつこうとするからそのような目にあう」
俺の頭を踏みつけながら光を纏ったテナは声高に笑う。
くそ……。
腕からの出血で意識が次第に薄れていく。
「始さんっ」
「始お兄ちゃんっ」
こっちに来るんじゃねえ。
お前らは逃げろ。
こいつはヤバイ。
やばすぎる……。
クソ……俺は陽依を……サクラを……刹奏を守るって言ったのに。
守れなくて……。
俺の意識は混沌へと飲まれていった。
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