第四十五話 家族会議
夕食後。
私は今日あったことをサクラと共に陽花さんに問い詰めていた。
俗に言う家族会議である。
「陽花さんっ!!私達にもう一人姉妹がいるなんて聞いてないんですけど!」
「へー……そうなんだー……お姉ちゃん、テラスちゃんにまで手を出してたんだねー……?」
聞いてるだけで凍り付くような声でお母さんは陽花さんに問いかける。
お母さんの眼が怖い。
すごく怖い。
視線で人を殺すことができるってのは本当の事なのかもしれないな、うん。
「待って待って。私知らないから。そんな事してないから!」
陽花さんは両手で無実をアピール。
「サクヤちゃん、サクラ、思考読んでちょうだい」
お母さんは間髪いれずにサクヤさんとサクラに思考読みを進言する。
「んー……どうも何も無かったって言うのは本当の事みたいですねぇ……」
「そうみたい」
サクヤさんとサクラは声を揃えて陽花さんの言葉を肯定する。
「でもそうだったら嬉しいなって思ってる」
「サ、サクラ、シーーーっ」
「ふーん……ふーん……そうなんだ。後でゆっくりお話ししましょうね、お姉ちゃん」
お母さんは陽花さんにつめよりそう呟く。
まあそれはともかく。
「じゃあ何で、あのテナって子は呪言だけでカムイを発動できたの?それが何よりの証拠じゃない!」
「だってテラスちゃんの子供なんでしょ?この国第一位の娘じゃない?それぐらいできて当然なんじゃ……」
「だってもへちまもなーーーーーーーい!!!」
私は陽花さんの言い訳じみた言葉を遮りそう叫ぶ。
「んー……まあ普通に考えたらお姉ちゃんとテラスちゃんの娘だったら陽依と同じことが出来て当然かなとは思うよ」
お母さんはあくまで冷静に冷たい視線を陽花さんに向けながらそう呟く。
この国二位と三位の娘に出来ることなら、一位と二位の娘なら出来ても当然だ。
お母さんの理論はそういう事だろう。
「うーん……これはちょっと何が何だか分かんないなぁ……」
陽花さんも身に覚えのないことを言われてほとほと困り果てている。
「……陽花さんにテラスちゃんと関係を持った記憶がないんだったらただの言いがかりじゃないかな……」
サクラは陽花さんを庇うようにそう告げる。
うーん……その線も捨てきれないけど……。
でも何より呪言のみでのカムイの発動。
これが私とテナを結びつける何かのような。
そんな気がしてならない。
「まぁ……明日テラスちゃんにちょっと聞いてみるよ」
そんな感じで我が家の第一回家族会議は終わりを告げた。
―――
眠れない。
眠れるわけなんてなかった。
サクラを起こさないようにベッドから這い出す。
カーテンを少し開けて空を見上げると綺麗な満月が真っ黒な闇に浮かんでいる。
私が大好きな丸くて真白な月。
呪言。
現代では私だけが使える特別な力だと思っていた。
それが脆くも崩れ去った。
テナ……。
彼女はいったいなんだというのだろう。
彼女は陽花さんとテラス様の娘だと言っていた。
もし仮に本当だとしたら、私に勝ち目はあるのだろうか。
もし本当なら彼女にはタカマガハラ一位と二位の血が流れていることになる。
対して私は二位と三位だ。
その差は大きい。
何故なら、二位と三位の差はとてつもなく大きいのだから。
それは陽花さんとお母さんも認めている。
実際、私の呪言と同等の威力を出せるのは陽花さんとテラス様位だと言われていた。
しかし今日使った呪言の威力は明らかにテナの方が上回っていた。
でも……私は勝たなければならない。
テナが私達をどうしようとしているのか。
それは今は分からないけれど。
せめてサクラだけは守らなければ。
例え私がどうなろうとも。
私はこの真白な月に誓う。
私の力で、テナを止めることを。
「お姉様……」
「ありゃ……起こしちゃった?」
振り返ると心配そうな表情でサクラが私を見つめている。
これはまた心を読まれたなぁ……。
やれやれ……困った妹だな……。
そう思いつつも、少し嬉しく思う。
「大丈夫だよ、サクラ。私はあんな奴に負けないから」
「はい……」
「信用してないな?私の強さは分かってるでしょ?」
「分かってます……。分かってますけど……」
「しょうがないなー。今日はお姉ちゃんと一緒に寝ちゃう?」
「そう……ですね」
サクラはもそもそと起きだして、私のベッドの毛布へと入ってくる。
私もベッドの毛布をかぶってサクラと向き合う。
「大丈夫、私に任せて」
「はい……」
サクラと両の手を繋ぎ二人、夢の世界に堕ちていく。
そうだ。
私はタカマガハラ二位と三位の娘だ。
あんなやつに絶対に負けたりなんかしない。
絶対に。




