第四十二話 永久との修行
刀を振るう。
正眼からの左肩口を目掛けて一閃、永久は難なくその一閃を刀で弾く。
俺は弾かれた同時に刃を滑らせ顔に向けて二閃目を放つ。
その一撃もいともたやすくかわされる。
返す刀で右肩口に向けて三閃目。
永久は刀を逆手に持ち替え俺の刀を弾き飛ばす。
まだまだっ!
弾き飛ばされた反動を使って俺は永久の右脇腹へ向けて一撃。
「ほぅ……」
永久はニヤリと笑ったかと思うと逆手に持った刀の柄で俺の右手を強打し刀を叩き落とす。
カラン、カラン。
刀が地面に落ちる音。
「いってぇえええええ」
「まぁこんなものか。今日のはなかなかいい線いっていたぞ?」
「はぁ……そう言われてもなぁ。永久は全然本気じゃないだろう?」
以前ホウライを攻めた時に見せた動きと今までの修行の動きは雲泥の差だ。
「それは当たり前だろう。私が本気を出したら、それこそ修行にならんぞ」
むー……。
それでもなぁ……。
少しでもその永久の動きに近づきたいんだけどなぁ。
「いつになったら、永久に追いつけるんだろうな……」
「永久に無理だと思うぞ?お前が人の身であり続ける限りな」
「は?どういうことだよ」
「言葉通りの意味だよ、始。私は人でありながら人ではない力を持っている」
「……ようわからん」
「つまりはこういうことだ」
今まで目の前で話をしていた永久の姿がかき消えたかと思うと、俺の首に刀を突きつける永久の姿が現れる。
ホウライで見たあの永久の動きだ。
「……全然姿が見えなかったんだが」
「それはそうだろう。これが『輪廻の守護者』たる私が有している力だ」
「でも永久はもう今は『輪廻の守護者』じゃないんじゃないのか?」
「そうだがな。一度身につけた力というものは取り戻すこともできるという事さ」
「もしかして永久って無敵なんじゃないのか?」
「無敵か……」
俺の言葉にフッと笑みをこぼすと永久は言葉を続ける。
「以前、この国の王と殺りあったことがある。奴も私と同じ力を有していたよ。今の私はその頃よりも遥かに弱い。無敵というなら、カムイも使えるこの国の王であろう」
……そうなのか。
あの見た目幼児みたいな皇女様がねぇ……。
「それにこの力は『刻の番人』の力でもある。刹那の娘である刹奏も使えるかもしれんな」
……。
そう言えば、誘拐された日に見せた刹奏の動きはその力なのか。
刀を召喚したと思ったらいつの間にか黒服の男を切り伏せていたからな……。
はー……。
陽依にしろ刹奏にしろ、俺が守りたいと思うやつはそろいもそろって化け物級か。
こんなんであいつらに俺は追いつけるんだろうか?
「考えててもしょうがないか。永久、もう一本だ」
「フ……。まぁ人の身で努力するお前のその姿勢は嫌いではないよ」
「その上から目線、いつか見返してやるからなっ!!」
「やれるものならやってみるがいい、始よ」
「おう、やってやるぜ!!」
俺は意気込んで刀を振るう。
少しでもあの化け物じみた力を操る少女達に近づくために。
少しでもあの少女達を守る手助けを得るために、俺は修行を続ける。
―――
天の神よ。
本当にこれで良かったのだろうか?
私は始に人の身に余る力を与えてしまったのではないだろうか?
天地神明刀。
あの刀はただの刀ではない。
あの刀は使い手の成長により能力が変化していく。
今はカムイを無効化するだけの能力だけかもしれない。
しかし始の成長と共に新たな能力に目覚めることだろう。
その時、始は刀を御することができるかどうか。
それはこの私にもわからぬ。
それに気にかかるのは刹奏の風斬、雷斬だ。
天地神明刀と対を成すあの刀達もいずれは目覚める運命にあるはずだ。
刹那の奴は目覚める事が無いように願っているようだが……。
始が天地神明刀を使いこなせば使いこなす程、共鳴するように、風斬、雷斬の目覚めは早まるだろう。
刀が本来の力に目覚めた時、あの娘の精神は耐えられるのだろうか。
まぁ……なるようになるだろう。
使いこなせぬ時はあの二人を私が切り捨てるまでだ。
それが私に残された使命なのであろうから。
私に残された『輪廻の守護者』の力はその為の力なのであろう。
どうかその日が来る事が無いように。
もしその日が来ても二人が力を使いこなすことができるように。
私は、天の神に祈るのみ、か。




