第四十一話 勉強
どうにもこうにもこの学園のテストは難しすぎる。
中身は大卒のオッサンの俺でも理解できない数式やら科学が多すぎるのだ。
歴史なんかは暗記で済むんだがなぁ……。
「ぷくくくー。始も中身オッサンなのに大したことないね」
昼食時。
担任でもないのに俺の成績を何処で知ったのかアカリ先生が俺を煽ってくる。
「やかましいわっ!そもそもタカマガハラの科学が発達しすぎてんだよ」
異世界の論理的思考なんて理解できるかっ。
いまだにこの世界の倫理観にも慣れないというのに。
「それに比べて薙君は全教科満点とか流石だねー。ご両親の教育の賜物かな?」
「いえ、父も母も特に僕には干渉してきませんから。母が絵を教えてくれるくらいですね」
いや、それ暗に自慢になるからな、薙。
はぁ……頭の出来が違うのかね。
陽依の呪言にしろ生まれ持った血筋がものをいうなんて世知辛い世の中だなぁ。
「よかったら、勉強教えようか?始君」
「いや、遠慮しとく。俺にはどうにも理解できんとこがあるからな」
日本の大学で習ったことを完全否定されてるみたいで、なんだか気が滅入るというのもある。
異世界の科学とか漫画とかラノベだと日本の方が大抵上なのになぁ……。
そういう所はほんと理不尽だと思う。
「せっかく薙君が教えてくれるって言うんだからマンツーマンで教えてもらいなさいよ」
「そ・れ・が、嫌なんだよ!!!」
ただですらクラスの皆にヒルノとの仲を疑われてんのに、薙と一緒に毎日勉強してたらまた噂されるだろ!
ていうか、あんたが噂流す気まんまんだろ、アホ教師!!
「えー……つれないなぁ……始君は。まぁそこが良いとこでもあるんだけどね」
「お前も変わってるよなぁ……」
普通こんな拒絶されたら諦めるだろ。
ヒルノにしてもいいかげん諦めてくれんもんかねぇ……。
「じゃあ、一人じゃ駄目なら刹奏ちゃんも一緒にどう?」
「え?私ですか。んー……私もお勉強は苦手ですけど……」
「じゃあ刹奏ちゃんには絵を教えてあげるよ」
「本当ですか!それなら是非とも教えていただきたいです」
ユズキ先生の絵柄とノノムー先生の絵柄のハイブリッドだと……。
なんともオタク心をくすぐられるコラボレーション。
ノノムー先生の絵柄にユズキ先生の絵のスパイスが加わるとどんな化学反応が起こるのか。
是非ともその絵は見てみたい。
「よし、刹奏。俺もそれに付き合うわ」
「ふぇ?始お兄ちゃん、急にノリノリだね?」
「……オタクはこれだから困るわー」
「やかましいわ、このアホ教師っ!」
「あーーー!またアホっって言った!!もう絶対単位取らせないように細工してやる!!留年だよ、留年!」
「……大人げない事言わないでください、パパ」
「ブー……そうは言うけどさーコイツの中身、私より年上のオッサンなんだよ?どっちが大人げないと思う?」
「それはそれ。これはこれです。今は始さんは子供なんですから」
「納得いかないいいいいいいいい!!!」
そんな訳でテスト期間前は薙に勉強を教えてもらうことになった。
―――
「薙ー……この問題さっぱりわからん」
「あー……これはここの数式を使えば簡単に解けるんだよ」
「お、まじだ。サンキュー」
この一週間。
放課後に勉強を教わって分かったことは、薙は賢いだけでなく教え方も上手い。
今まで分からなかった論理的思考がほぐれて再構築されていく感覚だ。
「ねぇねぇ薙君。この絵はどうかな」
「そうだねぇ。目がちょっと幼すぎるかも?母さんの絵柄だともう少し目を小さくして大人っぽく見せてるかな」
「ふむふむ……。じゃあ今度はその方向で描いてみるね」
勉強の傍ら刹奏の絵を見てみると、刹奏の手により神々しいばかりの絵が描きあがっていく。
あああ……やべええ。
刹奏が同人誌作るようになったら同人業界に革命が起きるぞ。
それぐらい刹奏の絵は魅力的に見えた。
「ところで何で、灯花も一緒に勉強してるんだ?」
「そこに刹奏ちゃんがいるからだよ」
おまえはどこのアルピニストだ。
いや突っ込むべきなのはそこなんだろうか。
まぁいいか。
灯花が居るのは別に良いんだ。
その隣にアカリ先生が居るのが問題なんだ。
「はぁ……灯花ちゃんは勉強してる姿も可愛いねぇ。刹奏ちゃん。この姿、絵に残しちゃってよ」
「え、はぁ。構いませんけど……」
「さすが刹奏ちゃん。お礼に今度うちに泊まりにきてもいいよっ!」
「わー。本当ですか?うれしいなー」
しばらくして刹奏のスケッチブックに灯花の姿が描き出されていく。
本物と見紛うばかりのスケッチ力だ。
「おお、さすが奏さんの娘っ!その絵、貰っても良いかなっ!?」
「あ、はい。どうぞ」
ビリビリとページを破り刹奏はアカリ先生に灯花の絵を手渡す。
「うひょーおおお。可愛いいいいい。これ私の部屋に額縁に入れてかざっとこ」
どこぞのオタクのような反応に正直引くわ。
俺もオタクだけどこんな反応今時しねえぞ……。
「パパ……恥ずかしいからやめてください」
「もう、恥ずかしがらなくてもいいんだよ?こんな可愛い絵を見て興奮しないでいられようか?いや興奮するしかないね!!」
「高尚に言ってるつもりだろうけど、とんでもなくアホ臭いですよ……パパ」
「そうだそうだ。勉強の邪魔だからそろそろどっか行ってくれませんかね。アホ教師」
「始、そんなこと言ってると進級させてあげないんだかんねっ」
「あんたにそんな権限あるんかよ!!」
「え?あるよ?学園の上層部の弱み握ってるし」
平然とした顔でアカリ先生はそう呟く。
まじか……。
え……このアホ教師の機嫌損ねるとマジで留年なの?
それは勘弁してくれーーーーーーー!!




