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第三十六話 ある冬の日の事

ある冬の日の事。



「祖たる原初の水霊(すいれい)よ、馳せ来たれ。そして我が呼び声に応えよ、水呼(すいこ)!」



俺の後ろから突如響く陽依(ひより)の呪言。

とともに俺の上から水がザバーっと降ってきた。

咄嗟の事でかわすこともできずに俺は降ってきた水を頭からもろにかぶってしまう。

つ、冷てえ……。



「陽依……お前なぁ……」


「ぷぷっ。水も滴って良い男だよ、始wwwww」



語尾に草生やしてそうな口調で言われても何も嬉しくないわっ。

コイツ……いつか絶対仕返ししてやるっ。



「こらっ、またそんないたずらしてっ!!」



その様子を見かけた月依(つくよ)先生は、慌てて逃げ出していった陽依を追いかけて行った。

あのー……先生、そんなことより代えの服とかないんですかね。

めっちゃ寒いんですけど……。



「ぶわっくしょい!!」



うー……鼻水が出てきた……。

あかん、死にそう……。



「始ちゃん、大丈夫?」



刹奏(せつか)が心配そうに声をかけてくる。



「……大丈夫そうに見えるか?」


「見えない」


「なら、アホ教師か月依先生呼んできてくれ……」


「うん。わかった」



結局10分程して刹奏がアホ教師を連れてきたときには俺の体は冷えきっていた。



「うわ。びしょびしょじゃん、始」


「そう思うなら早く何とかしてくれ」


「しょうがないわね」



アホ教師は懐からカードを取り出すと何かを念じる。

淡い赤いに色にカードが包まれて温風が巻き起こりだんだん俺の体を温まってきた。



「ってあちいいいいい!」


「あ、ごめんごめん。失敗しちゃった」


「桜花先生、わざとやってないか?」


「失礼ね。そんなことないわよ。ただ2属性以上の扱いが下手なだけよ」


「そうですか……」



ほんと下っ端のぺーぺーっていう話は本当なのな……。

それにしても……。

服は大体乾いたが鼻がむずむずする……。

これはやばいかもしれん。



翌日。

頭が重い……。

やはりというかなんというか。

風邪をひいてしまったらしい。



「大丈夫ですか?始さん」


「あ、はい。薬飲んで寝てれば治ると思うんで。ありがとうございます、刹那さん」


「そうですか。それじゃ私は刹奏を学園に連れて行ってきますので、その後にでも」



部屋まで迎えに来てくれた刹那さんを見送り俺は再び床にむかう。

リビングには遅めの朝食をとる永久の姿。



「なぁ、永久(とわ)……薬ってねーのか」


「ないな。そもそも風邪などひいたこともないしな」


「買って来てくんねぇ?」


「何を買えば良いのか分からん」



役に立たねえ奴だなぁ……。

これでも保護者だって言うんだから困ったもんだ。

まぁ期待はしてなかったけど。

しょうがないのでいそいそと外出着に着替えて近くのコンビニへと向かう。

そして適当な熱さましの効果のある薬を購入し、自宅へ帰還。

薬を胃袋におさめさっさと就寝することにした。

あー……しんどい。


―――


カチャ。カチャ。カチャ。

何か音がする。

ぼんやりとした視界の隅で人が忙しなく動いているのが見えた。

永久か……?

そう思い頭を振って意識をスッキリさせる。

起き上がろうとしたところで思いっきりその人物と視線があった。



「何してんだよ、ノノムー先生……」


「ギャーーーーっ!!!何で起きてくんのよ、馬鹿じゃないの!馬鹿じゃないの!」


「……いや、熱もだいぶ下がったし腹減ったんで……てか何してたんだよノノムー先生」


「そ、そう。なら良かったじゃない。それじゃ私はこの辺で帰るわよ」



言いながら、そそくさとノノムー先生は部屋を出ていってしまった。

なんだったんだ、一体。

ふと電子コンロの上を見てみると見慣れない鍋が一つ乗っている。

タオルで鍋の蓋を掴みあけてみるとおいしそうな雑炊が入っていた。

どうやらノノムー先生が作ってくれていたらしい。



「ありがとうな、ノノムー先生」



俺は出て行ったノノムー先生に礼を告げ、鍋の中の雑炊を茶碗に移しリビングへと持っていく。

そしてスプーンで一口、口に入れ咀嚼する。

うん……適度に塩味が利いていて美味しい。

ノノムー先生、料理も出来るんだな……。


てか永久のやつはどこに行ったんだ。

姿がさっぱり見当たらないが。

まぁ良いか……。

茶碗に盛った雑炊を食べきり、お腹を満たしたところで再び眠気に襲われる。

ふぁー……薬飲んでもうひと眠りするか……。

布団に戻り毛布を深くかぶる。

そうして再び俺は深い眠りへと落ちて行った。


―――


もぞもぞ。



「ふむ……こうすればいいか」



何か声が聞こえる。



「しかしだいぶ大きくなったものだな。子供の成長は早いという事か」



耳元から何か声が聞こえる。

温もりが手の届く距離までやってくる。

はっと目を開くと、見慣れた顔と視線がもろにあった。

永久だ。

永久が俺の目の前に居た。

居たというか、何故か俺と同じ布団に入っていた。

しかも全裸じゃないか、お前?

おいいいいいいいいい!!!



「……な、何してんの?永久」


「風邪をひいたときは人肌で温めるものだと、奏の本で読んだ」



いや、それ漫画の中での話だからね。

しかもそれ薄い本の中のお話ですからね。



「そ、それは間違った知識だ……」


「なんだ、そうなのか」


「永久ー、始の様子はどうなったー?ってあんたたち何してんのっ!?」



そこにノックもせずにノノムー先生がやって来た。

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。

めんどくさいことにいいいいいいい!!



「いあ、これはですね……」


「永久に何してんのよ、オッサン幼児っ!!」



慌てて起き上がって弁解を述べようとした俺の頭を履いていたスリッパではたくノノムー先生。

痛い……すげー痛い。

理不尽だ。



「お前の本に風邪ひいたときは人肌で温め合うと良いと描いてあったからそうしたまでだが」


「あ……あれかー……あれはなー……あれだからなー……」



永久の言葉に何とも言いづらそうな表情でノノムー先生は頬を掻く。



「ともかく永久はすぐに服を着なさいっ!!」


「なんだ。せっかく保護者らしいことをしてやろうとしたのに」



そうつぶやくとつまらなそうに服を着て布団から出ていく。



「ノノムー先生……」


「あははは……ごめんねー……始」



はぁ……これだから元天使は常識が無くて困る。

というか、世間知らずの元天使に同人誌読ませてるんじゃないよ、この人もさ。

俺は気まずそうな表情のノノムー先生をジト目で見続けるしかなかった。

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