第三十五話 刹奏と灯花
最近、刹奏と灯花の仲が良い。
今までが悪かったという訳でもないのだが、灯花が妙に積極的に刹奏を遊びに誘っている姿を見かける。
まぁそれは別に良い。
それは良いんだが。
刹奏がその度に俺も誘ってくるのが煩わしいというか、面倒くさい。
女子は女子同士で仲良くやってればいいんじゃないかと思うのだが、刹那さんにお世話になっている手前、刹奏の頼みごとには弱い俺だった。
そんな訳で今日は刹那さんが引率して4人で服屋へとやって来ていた。
「刹奏ちゃんって和服姿似合うよねー」
いかにも高そうな和服に身を包んだ刹奏を灯花は褒め称える。
「そ、そうかな?」
「絶対そうだって。金髪和服少女。萌えだよ、萌え」
「萌えって何?」
「ん?萌えっていうのは簡単に言えば好きっていう事だよ」
ちょーっと意味合いは違うけどな……。
詳しくはwik●ペディア参照されたし。
それにしても灯花って学園じゃ真面目少女なのに学園外じゃかなりフランクなんだよなぁ。
学園じゃそうするように躾けられてるって事なのかもしれないな。
「灯花ちゃんはドレスが似合うよねー」
「んー。いつも着てるからね。でもちょっとかたっ苦しくて」
「そうなんだ?」
真っ赤な長髪をウェーブヘアにして白いドレスに身を包んだ灯花はまるで人形のようだった。
ここにあのアホ教師が居たら「かわいいよ、灯花ちゃん。よっ、タカマガハラ一」とかほめちぎっていたに違いない。
「俺、この場に居なくてもよくないか?」
「もー。分かって無いなぁ、始君は。女の子は男の子に褒められるのが何より嬉しいんだよ?」
「そういうもんか」
転生前はさっぱり女っ気なかったから、そんなもん分からんわ。
陽依にしろサクラにしろ、女心はよう分からんな。
「まぁ刹奏も灯花も似合ってるんじゃないのか?」
「ぶー。なんでそこで疑問形なのかな」
「そう言われてもな……」
ふくれっ面をして腰に両手をあてた灯花が俺の顔の鼻先まで来てそう告げる。
近い近い近い近い。
俺は近づいてくる灯花を無理やり引きはがすと距離をとる。
まったく褒めても不機嫌になるんじゃなんて言えば良いんだよ。
何が正解なのか教えてくださいwik●ペディア先生。
「それじゃ、私と刹奏ちゃんが着てる服、カードで買ってくるわね。その服は私の奢りよ、刹奏ちゃん」
「ふえ?良いの?灯花ちゃん?」
「良いの良いの。これぐらいはした金だから」
店員を呼び灯花はカードを見せ会計へと向かう。
刹奏の服の値段タグをチラ見してみると60000とかいう数字が見えたんだが……。
因みに貨幣価値は日本のそれと変わらないので、日本でもそれぐらいの価値がある服という事になる。
60000がはした金ねぇ……。
ほんと箱入りお嬢様すぎんだろ、灯花のやつ。
こんな額使って灯花は桜花先生に怒られたりしないんだろうか?
……怒られたりするわけないか。
娘を溺愛してることをおくびにも出さないようなアホ教師だし。
「うーん……今度何か桜花先生にお礼しないといけませんねー」
なんて刹那さんは刹那さんで何かズレた事いってるし。
60000もするような物のお礼って結構大変なことだと思うんだがなぁ……。
まぁいいか。
「それじゃ、今日はこの辺で帰りましょうか」
会計を終えた灯花は買ったばかりのドレスを翻し歩き始める。
そして洋服屋の外に出ると、壁の向こうに落ちていく夕日をボンネットに反射させた黒塗りの車が待ち構えていた。
「お嬢様、お待ちしておりました」
白髪の執事が灯花の手を取り車へとエスコートする。
この光景を見せられるたびにこいつはお嬢様なんだなぁと実感させられる。
「それじゃ、また明日、学園でね」
「うん、今日はありがとうね、灯花ちゃん」
「おう。またな、灯花」
「気を付けて帰ってくださいね、灯花ちゃん」
俺達はそれぞれ別れのあいさつを交わした後、灯花を乗せた黒塗りの車は走り去って行った。
「さて。私達も帰りましょうか。始さんはここから生田亭ですか」
「そうですね。永久ももう先に行って席を取ってるでしょうし」
「それじゃ、私達はこのまま部屋に帰りますね」
「またねー、始ちゃん」
「おう。またな」
刹那さんと仲良く手を繋いだ刹奏は夕日を背にして家路へとつく。
さて……俺も夕飯食いに生田亭に向かうとしよう。
高層ビル群の片隅にある和食屋、生田亭へと俺は向かうのだった。
あー……腹減ったなぁ……。
早く生田亭に向かおう。




