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第二十六話 灯花のお誘い

どういう訳か、親バカのアホ教師が灯花(とうか)ともっと仲良くなるように勧めてきた。

灯花ちゃんに手を出したら殺すとか言っていたにも関わらず、だ。

これはいったどういう訳だ。

何か罠があるんじゃなかろうか。

きっとそうだ。

そうに違いない。



「始君はどうしてそんなに陽依(ひより)ちゃんと仲が良いのかな?」



灯花の言葉に俺は目をぱちくりとさせ、その言葉を逡巡する。

俺と陽依が仲がいい……。

仲がいいのか?



「いや、どこをどう見たら仲が良いのかと問いたいのだが」


「いつも楽しそうにしてますよ?」



楽しそう……。

楽しそうかぁー……。

あの一方的な理不尽な暴力が楽しそうに見えるのか。

確かに陽依は楽しそうにしているのだけれど。



「俺は全然楽しくなんかないぞ?」


「えー?そうかな?何処か楽しそうにしてるように見えるんだけどな」



……。

俺は決してマゾではないのだが。

うーん……灯花にはそう見えていたのか。

これは少し態度を改めないといけないな。



「そうそう。今日は帰りに遊びにいかない?」


「は?良いのか?」



いつも灯花は授業が終わると、黒塗りの車が迎えに来てさっさと帰ってしまうのに。

珍しいことも有るもんだ。



「あとはー刹奏(せつか)ちゃんも一緒に」


「まぁ俺と刹奏は一緒に帰ってるから刹那さんと一緒なら良いんじゃないか?」


「それじゃそういうことで放課後一緒に遊びましょ」



そんなやり取りをしている間にも灯花の背後からは視線がチクチク。

アホ教師が俺に睨みを効かせている。

断ったらコロス。

目が明らかにそう告げている。

……ほんと過保護すぎんだろ、このアホ教師。


さてさて放課後。



「それじゃ刹那さん、灯花ちゃんの事くれぐれもよろしくお願いしますね」


「はい。わかりました」



親同士がそんな話をしている間に俺達はどこに行こうか相談をする。

俺は別に何処か行きたい所も無かったので二人に任せることにした。

刹奏も以下同文。

というわけで結局、灯花が行きたい場所に行くことになった。

場所はゲームセンター。

どうしても欲しいぬいぐるみがあるんだとか。

こんな異世界にもゲームセンターなんてあるんだなぁと思いつつ、歩を進める。



「ここがゲームセンターだよ」



灯花に案内されて辿り着いたのは一戸の高層ビルだった。



「へー……この建物全部ゲーセンなのか」


「そう。すごいでしょ?」


「ああ。日本にはこんなゲーセンはないなぁ」


「それじゃさっさと目的のものを手に入れに行きましょ」



そう言って灯花は先頭を歩いて奥へと進む。



「えーっとぬいぐるみのコーナーは8階だったかな」



背伸びをして灯花はエレベータのボタンを押す。

辿り着いた階は見渡す限りぬいぐるみのクレーンゲームだらけだった。



「スゲーな……。これ全部そうなのか……」


「灯花ちゃんのぬいぐるみってどこにあるの?」



俺の陰に隠れて付いてきていた刹奏が問いかける。



「こっちこっち。このクレーンゲーム」



灯花が指さした先の筐体には天使の姿のぬいぐるみが所狭しと並べられていた。



「へー……灯花って天使が好きなのな」


「うん。大好き。この白い羽に一度で良いから包まれてみたいなって思ってる」



夢見る乙女の瞳で灯花はそう告げる。



「だそうですよ、刹那さん」


「残念ながら、私にはもう天使の羽はありませんから……」


「ですよね」



本人の知らない所で少女の夢は儚く砕け散った。



「それじゃ、このぬいぐるみ今日こそとってみせるわ」



そう告げて筐体の精算機にカードをかざす。

ピロンと音が鳴って、クレーンが動き出す。

ウイーン、ウイーン。

アームが灯花の目的と思しき金色の髪をした天使のぬいぐるみに迫る。

しかしこれじゃ駄目だ。

その目的のぬいぐるみの上には2体ばっかり別のぬいぐるみがのっかっている。

これじゃうまくつかめたとしても持ち上げることはできない。

案の定、クレーンは力なく目的のぬいぐるみを手放して元の場所へと戻ってきた。



「むー……なんでもちあがらないのよー」


「なぁ……灯花。おまえクレーンゲームの基本ってわかってるか?」


「え?そんなのあるの?」



きょとんとした顔で俺の顔を見つめる灯花。



「はぁ……しょうがねえな」



俺は呟きながら筐体の精算機にカードをかざす。

ピロンと音が鳴って、クレーンが再び動き出す。

ウイーン、ウイーン。

まずは重しをどけちまわないとなあ。

金色の髪をしたぬいぐるみに乗っかった別のぬいぐるみを狙ってアームを動かす。

そしてアームは無事そのぬいぐるみを掴んで受取口へ。



「始君、私この子が欲しいわけじゃないんだけど」


「まぁ見てろって」


俺は再び筐体の精算機にカードをかざす。

そして再び金色の髪をしたぬいぐるみに乗っかった別のぬいぐるみをアームで掴んで受取口へ。



「ほれ、これでお前の狙いのやつの上には何もなくなっただろ?やってみろ」


「うん……」



不安気な瞳で灯花は筐体の精算機にカードをかざす。

そして金髪の天使のぬいぐるみの上にアームを動かして見事ゲット。



「やたっ!ありがとう、始君!」



普段の落ち着いた雰囲気の灯花からは想像もできないような満面の笑みでお礼を言われた。



「やれやれ今までもこんな調子でゲーセンに通ってたのか?」



これまでいくらこのゲーセンに貢いでたのやら。



「んー……なんかお店の人が申し訳ないからって最後にはぬいぐるみくれてた」


「さいですか……」



ほんと箱入り娘のお嬢様なんだな……こいつ。

そりゃあのアホ教師も常に目を光らせてるわけだこれは。

そう思わずにはいられなかった。

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