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第二十四話 泥・沼

ズズズズズ。

二人カップ麺をすする音が部屋に鳴り響く。



「始……何故、最近私達はカップ麺ばかりなんだ?」



ここ一週間夕食はずっとカップ麺だった。

流石の永久(とわ)も怪訝に思ったのだろう。

俺はため息をつきつつこう答える。



「……ヒルノと顔を合わせ辛いんだよ……」


「ヒルノと何かあったのか?」



珍しく保護者らしくそんな事を聞いてくる永久。



「……告白された」


「ほう。それは良いことではないか」


「良くねーよ。俺は断ったんだからな……」


「何故だ?ヒルノは良い奴ではないか」



……確かに永久の言うとおりヒルノは良い奴だ。

断る理由は……ある。

ありすぎる。



「そもそもヒルノは男だからな!女みてーな顔してるけど男だからな!」


「別にいいんじゃないのか?刹奏(せつか)の両親は両方とも女だぞ?」


「それとこれとは話が別なんだよっ!!!」



百合は尊い。

それは秘密の花園。

それは目の保養。


しかし薔薇はあかん。

傍から見てる分にはまだいいとして。

自分が対象の薔薇なんて想像したくもない。

したくもないんだああああああああ!!!



「フム……。人間の感覚はいまいち分からんな……」


「分からなくて結構だよ……。俺だって分かりたくない」



俺はノンケでノーマルなんだからな。

男を抱きたいとか思いたくもない。



「同じ人間だろう?ついてるか、ついてないかの違いじゃないか」


「それがでっけえ問題なんだよ!!!」



この元天使は恥じらいもクソもねえな。

まぁ元天使だからその辺の感覚がズレてるのかもしれねーが。

はぁ……早く日本に帰りてえ……。

あれ……でも俺って成人したとして日本に帰れるのか?

その辺全然気にしたことなかったけどどうなんだろうか。


そんな話をしていると

ピンポーン。

インターホンが鳴る音が響き渡る。

こんな時間に誰だろう。

扉を開けるとそこにはユズキさんが立っていた。



「ちょっと良いかな?」


「なんでしょうか、ユズキさん」


「実は薙がちょっと元気なくてね。何かあったのかなって」



うーん……、何て言えば良いんだろう。

まぁ隠しててもしょうがないし正直に言うしかないか。

どっちみち本人の口からバレるかもしれない事だし。

この一週間ずっと気まずかったしな……。



「薙に告白されました。そして俺は振りました」


「なるほど。そういう事だったんだね」


「それだけですか?」



自分はあなたの息子さんを振ったんですよ?



「んー……自分の息子とはいえ、ひとの恋路にどうこういうつもりはないからね」



言いながらふうっと一息ついて俺の言葉を伺う。

わりとドライなんだな、ユズキさん。



「うーん……そうですね。薙もしっかりしてるようでまだ幼児ですし、一時の感情じゃないんでしょうか?」


「まぁそうだよね。始さんはともかく薙はまだまだ子供だしね。んー理由も分かったことだし。ボクはこの辺で失礼するよ」



手をひらひらと振りながらユズキさんは去って行った。

弁当はあれだけど、息子の事はよく見てるんだな、ユズキさん。

こっちも来週からはいつも通りに振舞えるようにするか。

あいつらはまだ子供なんだし物の分別がつくようになってから考えてもらうことにしよう。

そうしよう。


―――


さてさてそんな訳で翌週。

俺は平静を装って薙に話しかける。



「おい、薙。この前は悪かったな?」


「ん?何のこと?」


「いや、お前を振ったことをだな……」



俺の言葉に目を白黒させていた薙だがぽんと手をついて。



「ああ、そのことかー。うん。でも諦めないからね」



いや、そこは諦めて欲しいんだが……。

まぁいいか子供のいう事だ。

軽くスルーしておこう。



「あー薙っちばっかずるいなぁ。ワイもワイも」


「ああ、悪かったなヒルノ」


「よっしゃ許したる。今日の夕飯はサービスしとくで」


「まじか」


「まじまじ。おとんに頼んどいたるさかい」



これは役得だな。

ホクホク顔でそんな話をしていると。



「ああやって、やがて薔薇になるのよ。覚えときなさい、皆」



要らんことを女児達に吹き込むアホ教師が約一名。

月依(つくよ)先生もやれやれといった風にため息をつく。



「ならねえからっ!そもそも薔薇の意味分からんだろそいつらにはっ!」


「薔薇って言うのはね、男の子どうしがくんずほぐれつで……」


「説明せんで良いわいっ!!」



俺は履いていたスリッパをアホ教師に向かって投げつける。

パコーン。

見事アホ教師の顔面にストライク。

良い音したなぁ……



「フ……ガキのくせにやってくれるじゃない……」


「ふん。幼児に変な教育しようとしてるからだ」


「良いわ、たまには私のカムイを味合わせてあげる。あんたは一度絞めてやらないといけないと思ってたのよ」



ガキを絞めるとかホントアホ教師だなコイツはっ!!!

俺は慌てて逃げようとするとアホ教師はカードを懐から取り出し何かを念じようとする。

が。



「はいはい、子供相手にむきにならないでくださいねー……」



月依先生がカードを横から奪い去る。



「何すんのよ月依ー!」


「桜花さんがあまりにも大人げないからですよ」


「大人げないのはあいつもでしょう!」



そう言って俺を指さすアホ教師。

……まぁ確かにそうかもしれんが。

一応体は幼児だからな?



「それはそれ。これはこれ、です」


「むう……ああ言えばこう言う。ほんとやりにくいわ、この優等生様は」


「はいはい。それじゃ今日も元気にお外で皆で遊びましょうね」



月依先生の言葉に俺達は外へと駆けだしていく。

薔薇だのなんだのは一時保留だ。

これも俺達が大人になるにつれていずれ変っていくものだろう。

……そう願いたい。

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