第二話 異世界へようこそ。
どれだけの間、混沌に飲まれていたのだろうか。
頬にピトっピトっと冷たい感触がして、俺は飛び起きた。
辺りを見回すと辺りは高いコンクリートのビルに囲まれた公園ような場所だった。
俺はそこにある木の下で眠りについていたらしい。
「こ、ここが……異世界か?」
そう呟く自分の声にギョッとする。
声がめちゃくちゃ幼い。
改めて自分の体をぺちぺちと障りながら眼で見て確認する。
「……おい」
瞬の野郎……若い肉体を得て転生って言ってたけど、限度ってもんがあるだろっ!
この体、良くて五歳児くらいの体なんだが!!!!!
こんな五歳児かそこらの肉体で右も左も分からない異世界に放り出されて、どないせいちゅうねん!!!
服もなんかぶかぶかだし!!!
この服転生前に来てた俺の服そのまんまだよな!!!
服に着られているというのはまさにこの事だと思う。
深くため息をつきながらもなんとか気を持ち直し、来ている衣服を今の自分の体にあうように折り曲げる。
そしてぶかぶかのズボンとシャツを引きづりながら人通りのある道へと向かい周囲を確認する。
そこは様々な髪の色をした大人が忙しなく行きかっていた。
道路には空を浮く車が往来している。
瞬が言っていた近未来的な異世界というのはどうやら本当の事のようだ。
しかし……。
俺、これからどうすりゃいいの?
漫画なんかじゃ優しいお姉さんが声をかけてくれて保護してくれたりするよな、こういうのって。
と、とりあえず、その辺のお姉さんに声をかけてみよう。
「あ、あの、すいませんっ」
俺は勇気を出して優しそうな顔をした紫色の髪をしたお姉さんの袖を引っ張ってみる。
お姉さんは始めはびっくりしたような顔をしていたが、やがてしゃがみこんで俺に視線を合わせて語りかけてくる。
「×●●▽〇△?」
……。
お姉さんが何言ってんのか分かんねええええええええええええ。
え、何これ、もしかして言語体系が全然違うのか?この異世界。
せめて言葉が通じるようにしてから転生させろよ、あのクソ天使!!!!!
「えっと……日本語分かりますか?」
「〇×△▽×……」
紫色の髪をしたお姉さんは困った顔をしてそのまま俺をその場に置いてそのまま歩いて行ってしまった。
参った……。
まじで俺、この先どうすりゃいいんだ。
と、とりあえず、瞬が言うにはここは日本と繋がってるはずの異世界だ。
それが本当なら日本語が言葉が通じる人もいるかもしれない。
そう思いなおし、小一時間程、優しそうなお姉さんを見つけては声をかけ続けた。
が、全て空振り。
皆が皆、俺の事を変な奴を見るような目をして去って行く。
この異世界の住人、子供に対して厳しすぎませんかね!
せめて、保護とかしてくれよ……。
空を見上げながら途方にくれていると。
「……人間。お前は何故そんな恰好でこんな所に居る?」
声のした方を振り向くと真っ白な和服を着た黒髪の美少女が無感情な表情で俺に向かって声をかけていた。
背丈は俺より20cmくらい高い位の小柄な少女。
しかしその風貌に似合わずどこか凛とした空気を纏っている。
「何ででしょうね……って……あれあんた、日本語しゃべれんのか?」
「まぁな……。訳あって日本人と一緒に暮らしている」
「あの……助けてくれませんか?」
「フ……人間がこの私に助けを求めるのか」
言いながらくっくっくと自嘲染みた笑みを浮かべる少女。
なんだ、この人?なんかちょっとヤバイやつなのか?
例えていうなら中二病を地で行ってるようなやばさを感じる。
「フ……よかろう。これも何かの縁なのだろう。ついてくるがいい」
少女はそう呟くと俺の手を引き歩き出す。
少女の手はとても柔らかかったが同時にとても冷たく、人の温もりを一切感じなかった。
な……なんだ、この人。
マジで何者なんだ……。
俺は困惑しながらも少女に手を引かれ、ズボンを引きずり歩いて行った。
十分ほど歩いただろうか。
流石にこの幼い体で、ぶかぶかの洋服を引きずりながら歩いているといいかげん疲れてきた。
少女は俺のそんな様子にも無関心で黙々と歩を進める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。疲れたから休憩させてくれないか?」
「……そうか。人間とは不便なものだな」
少女はそう言うと俺はひょいっとお姫様抱っこされてしまった。
「ちょ、ま……」
なんだよ、こいつ。
めちゃくちゃ細腕なのに俺の体を軽々と持ち上げやがった。
まじで何者なんだよ……。
「なんだ?何を恥ずかしがっている。おまえは私より子供なのだから、別に気にせんでもよかろう」
……中身は三十過ぎのおっさんなんですけどね。
しかしなんだ……この子の感触、柔らかくてふわふわするけど……。
なんの匂いもしない、無臭だ。
女ってこんなもんだっけ……。
そんな少女に抱えられながら俺はとある部屋の前へとやって来た。
少女の部屋は高層ビルの一室だった。
「帰ったぞ、奏、刹那」
少女は俺を抱えたまま部屋の奥へと歩を進める。
「おかえりなさい、永久」
部屋の奥から少女の事を永久と呼んだ少女は、見間違えようがない。
あの瞬と同じ顔をした金髪の少女が目の前で暢気に微笑んでいた。
「ああああああ!!!!おまえっ!!瞬か!!!」
「え?え?」
俺は永久と呼ばれた少女から飛び降り瞬に向かって駆けだす。
「待ちなさいよ、このクソガキっ!!」
瞬に向かって食ってかかろうとすると、横から眼鏡をかけた黒髪の二十代位の女性に頭を叩かれた。
くそー……こんな自分より年下の女相手にクソガキ扱いされるなんて。
屈辱だ……。
俺、女難の相でもあんの?ねえ?