第十八話 修行するぞ、修行するぞ、修行するぞ。
さて、修行するとは心に誓ったものの。
いったいどうしたもんだろうか。
永久曰く。
「天地神明刀の形をイメージしそれを具現化する。簡単なことではないか」
全っ然っ訳わっかんねえよ!
天地神明刀の形をイメージして具現化するだぁ?
そんなの何度もやっとるわっ!
その度に悉く竹光が召喚されてきたけどな!
昼の自由時間の最中にヒルノや薙に隠れて外の風を浴びながら集中する。
天地神明刀を具現化。
あの美しい刃を持った刀をイメージして右手に力を込める。
右手は淡く光り、長刀の形をした何かが召喚される。
「はぁ……やっぱ竹光か……」
「なんや、おもろいことしとんなぁ、はっつん」
げ……ヒルノ。
あんま見られたくなかったんだがな……。
俺は慌てて竹光の召喚を解く。
「なんや、はっつんも特殊な力もっとったんかいな」
「皆には秘密だぞ。月依先生にだって秘密にしてるんだからな」
「そうなんかー。でもなんでなん?」
「これはカムイとは全然違う力なんだ。使いこなせるようになるまではあまり公にしたくない」
「ふーん……。まぁどうでもええけどな。じゃあこれはワイとはっつんだけの秘密やな」
「まぁ、そういうことになるな」
「ニハハハ。なんかそう言うのって良いなぁ」
少女のような可愛らしい笑顔でそう告げるヒルノの顔はとても魅力的で。
思わず惚れてしまいそうになってしまっていた。
いかんいかん。
こいつはこんな顔してるがれっきとした男だぞ。
それに俺は幼児趣味はねぇ。
……幼児趣味が許されるのは二次元まで。
イエス、ロリータ!ノータッチ!
この場合はイエス、ショタ!ノータッチ!か?
いやまてまて、それじゃショタを容認してるじゃねぇか。
それじゃあかんやろ。
頼むから俺をホモの道に引きずり込まないでくれ……。
そんな訳でヒルノが傍で見つめる小一時間。
俺は天地神明刀の召喚の修行に明け暮れた。
のだが、さっぱりうまくいかない。
召喚されるのは竹光ばかり。
「うーん……永久のやつが言ってた修行方法、本当にあってんだろうな?」
「ぜーんぶ竹光やからなぁ……。なんか根本的なとこから違ってるんとちゃうんか?」
根本的な所か……。
うーん……さっぱり思いつかねーぞ。
そもそも問題俺自身に剣術の心得なんてないのが問題なのか?
しかしふと刹奏が風斬、雷斬を召喚したときのことを思い出す。
そういや、あいつ、俺の声がまるで届いていないかのような感じだったな。
無の境地とかいうやつか。
「……試してみる価値はあるか」
そう呟いて俺は無心になって手をかざす。
召喚せしは天地神明刀。
形なんてどうでもいい。
俺の力になってくれればそれで良い。
「……我が呼び声に応えよ、そして我が力と成せ、天地神明刀!!」
右手から先程までとは違う黒い奔流が現れる。
そして黒く鈍く輝く一振りの長刀が姿を現した。
なんだこれは……。
これが天地神明刀?
永久が呼び出したあの虹色に輝く刀とは似ても似つかない。
「おお……やったやん、はっつん」
「……お、おう……」
「なんや浮かない顔やなぁ。これでひよ姉にも対抗できるで?」
この刀は、はたして本当に天地神明刀なのだろうか。
その不安を拭い去る事が出来ない。
何かとてつもない何かを呼び出してしまっているような、そんな不安に駆られる。
帰ったら永久に聞いてみるか……。
俺は黒刀を解除して、ヒルノと共に教室へと戻って行った。
「あれ、ヒルノ君、始君と一緒だったの?」
教室に戻ると薙が女子に囲まれておままごとの相手をさせられていた。
「薙っちは女子とおままごとかいな。好きやなぁお前も」
「結構楽しいよ、色々社会勉強になるし」
「社会勉強ね……」
「そう、社会勉強。今のうちから社会を知っておくことは大事な事なのよ」
陽依は胸を張りながらそう応える。
社会勉強ねぇ……。
気にくわないことがあったら、すぐ人にお仕置きする癖を治した方が良いと俺は思いますよ、陽依さん。
主に被害者は俺とヒルノだけどな。
そういや薙がお仕置きくらってる場面に出くわしたことないな。
こいつはこいつで世渡り上手だという事か。
……不公平だ。
ま、それが陽依のストレス解消になってるって言うんならいいんだけどさ。
最低限の手加減はしてくれてるみたいだし。
「それじゃちょうどよく帰って来た所で、あなた達もおままごとつきあいなさい」
「めんどくせーな、おい」
「始、あんた私に借りがあるわよね。忘れたとは言わせないわよ?」
射抜くような眼差しで俺の表情を伺う陽依。
その後ろには同じく同様の表情の月依先生。
何なのこの親子。
執念深いったらありゃしねえ。
ここで拒否ったらまず殺されるな、俺。
「はいはい……やればいいんだろ。やれば」
そうしてクラス全員を交えたおままごとが始まった。
お父さん役は陽依。
お母さん役はサクラ。
長女は灯花。
次女は刹奏。
長男は薙。
俺とヒルノはその辺のゴロツキらしい。
……ままごとにゴロツキって必要か?
話の筋としてはこうだ。
陽依とサクラがいないうちにゴロツキの俺達が家におしかける。
そして有り金全部ふんだくろうとする。
……なんとも世知辛い世の中だな、おい。
で、家に帰って来た陽依とサクラの手によってゴロツキは見事に退治されましたとさ。
その際もちろん、陽依の呪言によって軽く痛い目にあわされる俺とヒルノ。
なんでままごとでこんな痛い目にあわされなきゃならねーんだよ。
ほんと世の中不公平だ。




