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第十五話 とにもかくにも。

「大変だったね、始さん」



労いの言葉と共にユズキさんはミルクをカップに注いで俺の前に出してくれる。



「いえいえ、俺は二人に助けられっぱなしでしたよ……」



俺は事情聴取という名の下、高千穂のタカマガハラ課の事務所へとやって来ている最中だ。



「んー……でもまぁ二人を自由にしたのは始さんの功績だしね。それはお疲れ様でした」


「明日からどんな顔して陽依に顔あわせれば良いかが問題なんですけどね」



緊急事態とはいえ陽依のファーストキスを奪ってしまったわけだしなぁ……。

どんなお仕置きが待っているかとそら恐ろしいものを感じてしまう。



「で、結局、犯人の目的は何だったんですか?身代金目的じゃなかったみたいですけど」



俺は懐にしまってあった一人の男のカムイカードをテーブルに出してユズキさんに答えを仰ぐ。



「んー……そうなんだよねぇ。その辺は明日からうちの旦那が調べることになってるんだけど」



ユズキさんはカードを受け取りテーブルに置いてあったデバイスにチェックをかけるのだが、ブーっとエラー音がするのみ。

これはこの男の身元が不明って事なんだろうな。



「旦那さん……ですか」


「一応言っておくけど、れっきとした男の人だからね」



ホ……それを聞いてちょっと安心した。

この世界にもちゃんとした倫理観の下で恋愛って成立してるんだな。



「うちの後輩たちが特別すぎるんだよ。みーんな女の子同士で結婚しちゃうし。しかも一人は重婚だし」


「重婚って言うと陽花(ひはな)さんのことですか?」


「そうそう。彼女、ぱっとしない普通の女の子なんだけど何故か女子にモテまくってねー。何でだろうね」



言いながらクスリとユズキさんは俺に極上の笑顔で微笑みかける。

う……なんていうかその笑顔は反則です。

ちょっと惚れちゃいそうになってしまいました。



「とりあえずこれからは初等部の警備体制を強化するから安心してもらって良いよ」


「そうしてもらえると助かります」



あのアホ教師だけに任せてたら、また何か起こりかねないし。

それにまた陽依(ひより)刹奏(せつか)にあんな思い二度とさせたくないしな。


―――


その日の夜は部屋で買い置きのカップ麺を永久(とわ)と共にすすっていた。

そして一息ついた頃。

俺は意を決して永久に問いかける。



「なぁ……永久。俺もなんか特別な力が欲しいんだ」


「ほう。それはまたどうした気まぐれだ?」


「俺は誘拐されてもほとんど何もする事が出来なかった。陽依(ひより)刹奏(せつか)に守られてばかりじゃ嫌なんだよ。だから力が欲しい」



沈黙。

深い沈黙。

ズズズズズ……。

永久がカップラーメンをすする音が響く。



「……始よ。その得た力で、おまえは何を望む?」


「何って……うーん……」



今日あったことを思い返す。

俺は結局、陽依に頼ることしかできなかった。

そして俺は刹奏の力に救われることしかできなかった。

だから……。

だから俺は。



「俺は……陽依や刹奏を助けられるようになりたい……じゃだめか?」


「陽依や刹奏を助けられるように、か……。陽依や刹奏を助けられるようになってその後は何を望む?」



陽依や刹奏を助けられるようになった後に望むこと……か。

うーん……。


「……他に誰か困ってる人も助けられるようになりたいじゃ駄目か?」



再び沈黙。

ズズズズズ。

再び永久がカップ麺をすする音が響き渡る。



「……フッ……まぁ悪くない答えだな」



そう言って永久はカップ麺をテーブルに置き俺の横へと歩いてくる。



「ならばお前に天使の力の一部を授けてやろう」


「は?そんなことできるのか?」


「まぁほんの一部だがな。それに私の力はもう微々たるものだ。それでもいいなら授けてやらんでもない」


「ああ、どんな力でも良い。それが誰かの助けになるなら」


「フ……ならば。我が呼び声に応えよ、天地神明刀!!」



永久の声に応え永久の手に美しく輝く長刀が召喚される。

刃先が虹色に輝く長刀。

この世のものとは思えないような美しさだ。



「どうだ。美しい刀だろう?」


「そうだな……。この刀を俺にくれるのか?」


「そうだ。そして、この刀を使いこなせるかはお前次第だ」



言いながら永久は俺に天地神明刀を手渡す。

ズシリと重い感覚が手にのしかかる。



「さて、それでは契約の儀式だ。そこに刀を持って正座するがいい」


「分かった」



俺は天地神明刀を手に永久の前に正座する。



「これより天地神明刀の主として春日野(かすがの)(はじめ)を追加する。主の命に天地神明刀は応えることを盟約とせよ」



永久がそう告げると天地神明刀は光り輝き俺の右手に吸い込まれていった。



「これで、契約は(しま)いだ。試しに呼び出してみるがいい」



ええと……確かこうか?

俺は右手に力を集中し、こう告げる。



「我が呼び声に応えよ、天地神明刀!!」



光が右手から収束し長刀の形を成していく。

しかし……。

それは長刀の形をしていたけれど。



「ただの竹光(たけみつ)じゃねぇえか!」



そう。

召喚されたのは竹でできた模造刀だった。



「それはお前の集中力と修行が足りないからだ」


「……さいですか」



元天使様の力が手に入るって言うから期待してたのにとんだ期待はずれだわ……。

まぁそんな簡単に手に入る代物じゃないって事か。



「今の体になって使いこなせるようになるまで、私は三年かかった」


「三年かよ……刹奏は無意識だけど使いこなしてたんだけどなぁ……」


風斬(かざきり)雷斬(らいきり)をか?」



俺の言葉を聞き永久は目を丸くする。



「ああ。確かそんな名前だったな」


「フフ……どうやら天の神もこうなることを望んでいたのかもしれぬな」


「どういうことだ?」


「いや、こっちの話だ。気にするな」



言いながらも含み笑いを続ける永久。

何だよ、余計気になるじゃねーか。

言いたいことがあるならハッキリいえよ、この中二病元天使!!


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