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第十四話 もう一人の。

俺達は入口の扉の前でもう一人の男が返ってくるのを待ち構えていたのだが。

いっこうに帰ってくる気配が無い。

う●こにしちゃやけに長いなとそう思っていると。

扉が眩い光に包まれてドーンっという音とともに木っ端みじんに消し飛んだ。

その爆発に俺達は巻き込まれて散り散りに吹き飛ばされる。



「だーから気を付けろっつっただろうが、使えねえ奴だな、おい」



もう一人の男が片手にカムイのカードを持ちぼやきながら部屋に入ってくる。

周囲を見回すと男の足元付近に陽依(ひより)が血だらけになって転がっていた。



「陽依っ!!」


「陽依お姉ちゃん!」


「ん?おー……ちょうど面倒くさいやつはおねんねしてくれたみたいだな」



言いながら男は陽依の頭に足を乗せ踏みつける。



「てめぇ、陽依から足をどけやがれ!!」


「いいや、どけないね。さて。お前達にも大人しくしてもらおうか」



男はカードを構え何かのカムイを発動させようとする。

まずい。

頼りの陽依があれじゃもうどうにもならない。

せめて刹奏(せつか)だけでも俺が守らないと。

刹奏の前に出て楯になろうと俺は前に出る。



「我が問いに応えよ。風斬(かざきり)ッ!雷斬(らいきり)ッ!」



男のカードに淡い光が灯ろうとしたその瞬間。

目にもとまらぬ速さとはまさにこの事だろうか。

先程までおどおどと俺の後ろに居た少女とは思えない動きで、刹奏(せつか)はどこからか出したのか分からない短刀を手にして男の両腕を切り落としていた。

吹きだす赤い血しぶき。

その場に崩れ落ちる男。

声にならない男の叫び声。

男の血で赤く染まっていく陽依の体。

ほんの一瞬で地獄のような光景が俺の眼前に広がっていた。

そして男の返り血を浴びながら真っ赤になった刹奏(せつか)は焦点の合わない目で刀を振り下ろそうとする。



「ちょ、待て待て待てっ!!刹奏っ!!!」


「……始ちゃん?」



俺の声で我を取り戻したのか刹奏の顔に表情が戻り両手に持った短刀がフッと消滅する。

と同時に刹奏が叫び声を上げる。



「これ……何……」



俺は刹奏の言葉に何も返事を返すことが出来なかった。

この惨状を引き起こしたのがこの小さな体の5歳児だということが、この眼で見ていたのに信じられない。



「始ちゃん、何これ……何で私真っ赤なの?……ねぇ……どうして?陽依お姉ちゃんもどうして真っ赤なの……」



言葉を紡ぐたびにだんだんと嗚咽交じりになる刹奏。

そして刹奏は俺の胸に頭をうずめて泣きじゃくり始めてしまった。

俺はその光景をただ呆然と見ていることしかできなくて。

ただただ呆然と立ち尽くすことしかできなくて。

それがとても、とても悔しくて。

自分に何の力も無い事を俺は呪う事しかできなかった。


―――


暫くして、泣き疲れたのか刹奏はすうすうと寝息を立てて寝始めてしまった。

とりあえずどうしたもんか。

このおっさん気絶してるけどこのままにしたら間違いなく失血死するよな。

そう思っていると。



「陽依っ、刹奏ちゃんっ!!!」



見知らぬスーツ姿の美人な女性がものすごい勢いで部屋へと駆けこんできた。

そして血まみれになった陽依を抱き上げて頬をペチペチ叩き始める。



「……お、お母さん?」


「うん、お母さんだよ。ごめんね、こんなボロボロにしちゃってごめんね」



そう言うと陽依の母はカムイのカードを取り出し何か念じ始める。

するとカードが淡く白く光り陽依の体の傷がみるみる塞がっていく。



「ありがとう……お母さん……」



安心したのかまたフッと意識を失う陽依。

と同時に聞きなれた声が聞こえてくる。



「大丈夫ですか?始さん?」


「んー……ここに来るまでに千里眼で見てたけどまさかこんなことになるとはねぇ……」



刹那さんと桜花先生だ。



「俺は大丈夫です。刹奏も泣き疲れて眠ったみたいで」


「そうですか。ありがとうございます、始さん」



俺は刹奏の体を刹那さんに預けてやっと一息つくことができた。

あー……一時はどうなることかと思ったけど助かったー。



「ていうかさー、月依(つくよ)。早くしないと、そっちのおじさん死んじゃいそうなんだけど」



足でツンツンと血だまりに倒れている黒服の男をつつく桜花先生。

今にも死にそうなおっさんにそんな風な扱いするって、やっぱ教師失格じゃねえのこの先生。

……授業中にソシャゲに勤しんでる時点で失格な気もするけどな。



「死んじゃえば良いのよ、そんな奴」



桜花先生の言葉に陽依の母……月依さんはバッサリと冷たく言い放つ。

さすが陽依の母親という所か。

言葉の切れ味が切れっ切れだ。



「いや気持ちは分かるけどさ。刹奏ちゃんを殺人者にしたくないでしょ」


「……そうだけど。うー……。ああもうっ。しょうがないなっ」



月依さんはカムイのカードを再び構えて何か念じ始める。

するとカードが淡く白く光り男の傷がみるみる塞がっていった。

はぁ……まじでスゲーなカムイって。

こんなバッサリ切った傷すらも塞ぐ事が出来るのか……。



「とりあえず、斬癒(きりやし)でもこんな大怪我、応急処置くらいしかできないから。とっとと病院に連絡入れちゃって」


「ん。その辺はだいじょーぶ、じょーぶ。ここに来るまでに連絡入れといたからもうそろそろくるっしょ?」


「……なら何で、私に斬癒(きりやし)頼んだのさ、桜花さん……」


「いやー。もしもの事ってのもあるかもしれないじゃない?って、ちょっと月依、カード構えないでよ。ちょっとたんま!」


「いいえ。待ちません。そもそもこんなことになったのは、桜花さんの監督不行き届きが原因なんです。だから少し痛い目見てくださいっ!!」



言いながら月依さんのカードが淡く緑色に輝く。

と同時に閃光が走りアホ教師を襲う。



「ちょ、ぎゃああああああ、痺れるううううううううう……」



良いぞ、月依さん!

月依さんとは美味い酒が飲めそうだ、本当に。



「そうそう、あと一人お仕置きしないといけない子がいたね」



ニッコリと俺に微笑みながら俺に近づいてくる月依さん。

え?俺?

逃げる間もなくゴツッと月依さんの拳骨が俺の脳天に直撃する。

い、いてええええええええ!!



「私の愛娘のファーストキスを奪っておいて、その程度で済むんだから感謝しなさい」



そう言ってスタスタと部屋を出て行ってしまった。

前言撤回。

月依さんとは美味い酒は飲めそうにないわ。

ズキズキと痛む頭を抱えながら、その辺で軽く放電してるアホ教師を眺める俺だった。



「ていうか、刹那さん。こんな状態になってるって分かってて来たみたいですけど……。何でです?」



率直な疑問を俺は口にする。

そう、刹那さん達はもう事件が終息しているかのような雰囲気でやって来た。

娘が傷だらけだった月依さん以外は。



「それはですね、桜花先生の宝貝(ぱおぺい)、千里眼でここの様子をうかがってたからなんですよ」


「ああ……先生がもってるって言ってた宝貝ですか」



千里眼と言う名からして、どんなことでも見通せる宝貝なのだろう。

そうか。

それじゃあわざわざ俺達は脱出しようとしなくても良かったって訳だ。

それは悪い事してしまったな。

特に陽依には……。

明日会ったら謝っておかないとなぁ。

なんかお仕置きするとか言ってた気もするが。



「あと……刹奏のあの力はなんなんですか?」



俺は刹那さんにもう一つの疑問を問いかける。

刹奏のあの動き。

まるで止まった時の中を動いたかのような動きだった。

そして両手に召喚した二振りの刀。

あれは以前見せてもらった絵から召喚する力とは明らかに異質の物だった。



「あれは私の力の欠片ですね……。私が天使だった頃の力がまさかこの子に遺伝しているとは思いもよりませんでしたが……」


「そう……ですか……」



刹奏を見つめながらそう辛そうに呟く刹那さんを見て、俺はそれ以上疑問を問いかけることはできなかった。



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