第十一話 おそとにいこう。
「というわけで、きょうはみんなでおそとにいくわよ。いろんはないわね」
いまだに自分の横でもだえ苦しむ俺を他所に、ひよりは胸を張ってそう告げる。
ガキのくせにものすげえ力で腕を捩じりやがって。
これもカムイとやらの力か?
だとしたらなんでもありじゃねえか、このクソガキ。
こんなガキに良い様に言われるのも癪だがここは大人しく従っておくか……。
「……おそとにいくにしてもどこにいくの?ひよりおねえさま」
「そうねぇ……たまにはえんがいにでかけるのもいいわね」
「園外かぁ、何や面白そうやな」
ヒルノがニヒヒと笑いながらひよりの提案に同意する。
「私はここに残るわ。ママに心配かけたくないから」
「とうかはまじめねぇ……。じゃあとはせつかとなぎだけどどうする?」
「んー……僕も遠慮しとこうかな。あんまり大人数でいくのもどうかと思うし」
「ちぇ。つきあいわるいなー。せつかはいっしょにくるでしょ?」
「えっと……わたしもえんりょしたいかなって……」
「く、る、で、し、ょ?」
そう刹奏に告げるひよりの目は笑っていない。
「は、はぃー……」
あのー……ひよりさん、ひよりさん。
それを何て言うか知ってますか?
脅しって言うんですよ。
こんな奴が神童とか言われてるんだからなぁ。
皆、コイツのこと持ち上げすぎなんじゃないだろうか。
「はい、それじゃきまり。今からわたしとサクラ、せつかにヒルノ。あとはじめでえんがいにたんけんよ」
「……俺には拒否権ないのな?」
「いちおうあんたはおっさんなんだから、ほごしゃがわりよ」
「そんな時ばっかり良い様に使うのな!」
「いうじゃない。ばかとハサミはつかいようって」
「……」
くそー……今まで何とも思ってなかったけど、ひよりってすげー性格悪いんじゃないだろうか。
皆が神童神童って持て囃すから調子にのってんじゃねーのか。
「じゃあそういうことで、あとのことはよろしくね、とうか、なぎ」
「はいはい。行ってらっしゃい。気を付けて行ってきてね」
「何かあったらすぐ連絡してね」
「それじゃ、いってくるわね」
そうして俺達五人はひよりを先頭に園外へと向かっていく。
「で。園外に行くって言ってもどこに行くんだ?ひより」
「そうねぇ……たまにはとざんでもたのしみましょうか」
「登山ってお前……。そんな山どこにあるんだよ」
桜花先生に貸してもらった教科書にはタカマガハラには山らしい山は存在しない事が記述されていたはずだ。
教科書によるとこのタカマガハラ自体クソデカい壁に囲まれた一つの街で構成されている街らしい。
「ふふふ。これだからあんたはガキなのよ。やまなんていくらでもつくれるのよ、このわたしには」
ひよりはそう告げると初等部の前にある公園の砂場で山を作り始める。
その様子を俺達四人はぼんやりと眺めていた。
「こんなもんかしらね」
ひよりの前にはちょっとした大き目の砂山が出来上がっていた。
「……まさかそれが山だとかいうんじゃないだろうな」
「そのまさかだけど」
「こんな山でどう登山するって言うんだよ、このクソガキ」
「あんた……またクソガキっていったわね……」
ひよりは言いながら鋭い目つきで俺を射殺すような視線を向けてくる。
クソ……こいつまだガキのくせになんて顔しやがる。
先程腕を捩じられた恐怖で足がすくむ。
「まずはあんたからとざんをたのしませてあげるわ。そたるげんしょのとれいよ、はせきたれ。そしてわがよびごえにこたえよ!にくたいしゅうしゅくッ!」
ひよりの呪言とともに俺の体が茶色の光に包まれてどんどん縮んでいく。
「ちょ、ま……お前何してくれちゃってんのーーーっ」
抗議の声も虚しく俺の体は更に縮んで身長5cm位の大きさになってしまった。
「さてと……どっからスタートにしてあげようかしらね」
言いながら俺の体をひよりはひょいっと掴み上げ砂場の山の麓に投げ捨てる。
「いてええええ!」
お前、人間の体って意外と脆いんだぞ!
打ち所悪かったら最悪即死なんてあるんだからな!
某ロボットアニメだったら死んでたぞ、今の。
「頂上まで登ったら元に戻してあげるわよ」
「……頂上までって……」
試しにひよりの作った砂山に足をかけると登ろうとした傍からボロボロと山が崩れていく。
こんな砂山どうやって登れと……。
しかしあのひよりの口調じゃこの砂山を登頂しない限り元に戻してくれそうもない。
はぁ……しょうがないな。
気合を入れて登るか……。
「おー……面白そうやな。ワイにもそれやらせてーな」
「ん?いいわよ。ヒルノもものずきね。そたるげんしょのとれいよ、はせきたれ。そしてわがよびごえにこたえよ!にくたいしゅうしゅくッ!」
ひよりの呪言とともにヒルノの体が茶色の光に包まれて俺と同じ体のサイズになった。
「じゃ、ふたりでがんばってとざんしてね。わたしたちはここであんたたちみはってるから」
そんな訳で俺とヒルノはひより達が見守る中、砂山登山を開始した。
はぁ……何でこんなことに。




