いつもとは違うその人は…
身体に力が入らない。
そんな中迫る師匠の刀。
避ける、受けるすべもなく、ただただ迫る刀を見るだけしかできなくて。
身体に当たる。
そう思った瞬間に師匠の刀は動きを変え、俺に当たることがなかった。
「チッ!もうどいつもこいつもどうして邪魔するのよぉ~!」
師匠はそういいながら木々の奥を見る。
そんな師匠の足元には小刀が3本地面に刺さっていた。
師匠は明らかな苛立ちを出していた。
ドッ!
突然の衝撃波が俺に届いた。
師匠はいつの間にか刀を抜き、何者かの追撃を防いでいた。
目の前で広げられる攻防戦。
俺に一撃一撃の衝撃から生まれる力強い風が俺に届く。
師匠に襲い掛かるは2人が振るう2本の大剣。
俺はその大剣を振るう2人を知っていた。
ドンッ!
2人の大剣が師匠の身体に当たり師匠を吹っ飛ばした。
「あまり俺たちの息子を苛めてくれるなよ」
「もうあなたに息子をいいようにはさせません!」
師匠が吹っ飛ぶと俺の目の前に2本の大剣が地面を刺した。
その横に立つ人物は以前の世界でよく知ってる人だった。
でも、前まで見ていた姿とは印象が全く違う。
それでも、この人たちは…
「父さん…母さん…」
いつもはだらしないスーツに身を包み、母さんとイチャイチャして惚気てくる。
そして、誰よりも俺と沙耶を守り続けた頼りのある父さん。
いつもはエプロン姿で家に帰ればいつも待っててくれた母さん。
そして、誰よりも俺と沙耶を愛し支えてくれた母さん。
今俺の目の前にいる2人は動きいやすい服装に身を包み立っている。
「痛いなぁ~何でここにいるのかなぁ~」
師匠が飛んで行った方向から声が聞こえ、師匠がゆっくり立ち上がった。
「子供がピンチの時に黙って茶を啜ってる分けねぇだろう」
「いつどこにいても子供がピンチなら駆けつけるのが親です。それが別世界であっても」
2人は地面に刺した大剣を抜き再び構える。
「それによぉ、悠を守りたいと思うのはなにも俺たちだけじゃねぇよ。そこに突っ立てていいのか?」
「ッ!」
師匠が再び剣を動かした。
師匠に襲い掛かる細身の剣。
軽やかな剣筋。
明らかに今まで見た中で最速の剣。
止むことのない剣戟が師匠を襲う。
師匠は反撃の隙を見出せずただ受けていくだけ。
その剣戟を俺は見たことがある。
「そんなはずない…だってあいつは俺が殺したハズじゃ…」
あの細身でスピードに特化した剣…
目で追うのも難しいほどの剣戟…
あれを使うのは俺の知ってる限りただ1人…
俺の親友だったアキ…
その親友は俺がこの手で殺したハズだった。
「なんだロア、まだ悠に話してなかったのか」
父さんが声をかけると、その方向から何人か歩いてくる。
「そんな暇がなかったんじゃよ」
歩いてきたのは魔王にサヤ、リサ、マナ、ミィナ、ミレイヤがだった。
「あなたは変わりませんね。そういった話は先にしておくべきでしょう。ほら、悠がポカーンってしてるじゃないですか」
「「まぁ~話は後だな(ですね)」」
そういうと、父さんと母さんは大剣を掲げ師匠に襲い掛かる。
「お兄ちゃん大丈夫ですか?」
そういって俺の身体を指で押してくる。
「ッ!」
指が当たる感覚が激痛として俺の身体を走る。
「痛そうですね。」
そういいながら、やめる気配がない。
俺は痛さで地面にうずくまる。
「ユウ本当に痛そうだぞ…」
「サヤお姉ちゃんそろそろ…」
「サヤそろそろやめてあげたほうがいいのでは…」
「そうよ、サヤ少しやりすぎよ。ユウの身体は限界なんだから」
そんな沙耶を4人が止めようとしてくれる。
「痛いなら何でこんなことするんでしょうね。こうなることもお兄ちゃんにはわかっていたんでしょう。
それなのに何でこんなにも苦しんじゃうんでしょうね」
「いや、今痛さに追い打ちかけてるのはサヤじゃあ…」
「なんですか?」
「何でもないです…」
リサが反論しようとするも、沙耶は敵意を剥き出しにリサを睨んだ。
リサは沙耶に珍しく怯んだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。答えてくださいよ。どうしてですか?ねぇ。ねぇ。ねぇ」
そんな沙耶の指はどんどん早くなる。
いやマジ死ぬほど痛いんだけど!
意識飛びそうなんですけど!
「これこれ、そこまでにするのじゃ。ほれユウ」
やっと魔王が止めてくれた。
そして、魔王が俺に手をかざすと俺の身体は光出し、痛みが消えた。
「これで肉体のダメージはなくなったはずじゃ」
痛みが消えた俺は再び現在の状況を把握しようとする。
「なんで父さんと母さんがここに?それにアキまで…」
俺は師匠と戦っている3人を見ながら聞く。
「話は後にしようではないか。彼女が相手である以上手は抜けぬ。どうもあの3人も攻めきれずにいるようだしな」
3人の攻撃を受けながら、師匠は平然と受け流している。
師匠は3人が生む隙を待っているようだった。
今は全力で攻めれてはいるが、体力は有限だ。
いつかペースが落ちてくる。
師匠はそれを待っている。
多少の動きの変化を師匠は逃さない。
それはすぐに起こった。
3人は力を籠めるのに軸足に力を込め、地を削る。
父さんの地が削れ足場のバランスが多少ずれた。
ほんの少し父さんの連撃スピードが遅れる。
その変化を師匠は見逃さず父さんの剣を弾き飛ばした。
その後に迫りくる2人の剣戟も流した後、3人を蹴り飛ばした。
その蹴りを3人は多少後退させながらも受け流した。
そして、俺たちの方へ後退してきた。
「どういつも、どいつも、どいつも!どうして私の邪魔をするのぉ!私は悠くんと一緒にいたいだけなのにぃ!」
師匠が叫ぶと師匠の殺気が俺たちを襲う。
「なにもお主がユウを欲するのを否定しているわけではない。そのための手段が間違っているってことじゃ」
横にいた魔王が俺たちの前に出て師匠と向き合う。
「ロウ…創られた魔王の分際でまた私の邪魔をするの?創造者に歯向かうというのぉ!勝てると思ってるのぉ!」
「それが儂たちを創った夫婦の願いであるからな。儂1人では勝つことができなくとも、ユウを守ろうとするものは大勢おる。それとも、まだ不完全な状態のお主が儂たち全員を相手すると?」
「創られた人形がいくら集まっても意味なんて…ッ!!どうして…どうして人形にそんな力が…」
師匠は俺たち全を見ると驚いたように目を丸くする。
そして、1匹の黒猫で視線が止まった。
「まさかその神獣…」
「うむ、この子はある夫婦が残してくれた子でな。夫婦最後の力を託した子でもある。神の力をな」
「それでここにいるものを神格化したのぉ?」
「神とまではいかぬが、神に反逆できる力は得たぞ」
「ッ!」
「ここで引くのなら儂らはおいはせん。今これ以上戦ってもこちらに犠牲が出かねんからな」
「犠牲を考えなかったら勝てる言い方だねぇ」
「もちろん」
師匠と魔王の掛け合いは淡々と続いた。
そして、師匠は刀を鞘に収めた。
「いいわぁ。今回は引くわぁ。ただ、あなた達は私の敵よぉ。絶対に殺す。
悠くん、皆また殺してあげるぅ。そしたらまた迎えに来るから待っててねぇ」
師匠はそういうと姿を消した。
師匠が消えた後静かな空気があたりを包む。
皆師匠が消えた後も少しの間警戒していた。
そして、完全にいなくなったと思うと皆警戒を解き剣を収めた。




