師匠に抗います!
赤い髪を靡かせ空に浮かんでいるのは師匠である静 鈴。
師匠がこの世界にいることは不思議ではなかった。
どんな力かは知らないが、過去に一度俺を異世界に連れて行ったことがあるから。
それがこの世界で使われる魔術のようなものかもしれない。
だから、異世界を渡ることに不思議はなかった。
師匠がこの世界にいる可能性も考えていた。
この世界に来た時に俺たちを召喚したであろう倒れていた人。
最初はその周囲にいた魔獣ガキに殺られたのだと思った。
でも、あの人のそばを通る際に気づいてしまった。
あの人の致命傷となったであろう切り口は、獣がつけれるような傷ではないことを。
明らかに、刃。そう、刀もしくは剣によってつけられたものだと分かった。
そして、その傷の周囲は肉が焼けたように焦げていた。
俺にはそんな傷をつけれる人物を知っていた。
師匠の刀ならできることを。
師匠の愛刀は炎刃焔。
初めて見たときは驚いたが、その刀は火を纏う。
だから、師匠がもしかしたらこの世界にいるのではと思った。
でも、魔術の存在を知り、魔術の存在があるなら師匠じゃない可能性も高い。
気のせいだと思うことにした。
だが、枯れた精木の土から香る焦げた花の匂い。
まだ、その時点では精木を枯らした原因であると確信できなかったが、魔王が精木を復活した際にその匂いが消えたことで、師匠がここにいて精木を枯らした人である可能性を強く感じた。
師匠と生きた世界で一度敵対した国の緑、作物をすべて枯らしたことがある。
その時使った方法が師匠が作り出した薬だった。
その薬を土に撒けば、撒いた土地の緑はすべてを失った。
焦げた花のにおいを残して。
信じたくはなかった。
この戦いに師匠が関わっていることを。
だから会いたくなかった。
ここにいないことを願っていた。
そして現実はそお願いを打ち砕いた。
目の前にいるのは師匠。
赤く靡く髪に優しい笑みを浮かべる師匠。
俺をここに誘い出した師匠。
「うぅん?返事がないなぁ~あぁ!再会に感動しすぎて声が出ないのかなぁ~悠くんは可愛いなぁ~」
師匠は笑顔のまま地上に降りてきて、俺に抱き着こうとしてきた。
「うぅん?どういうつもりかなぁ悠くん?」
近づいてくる師匠に俺は剣を師匠の喉元に突き付けた。
「師匠が俺をここに呼んだでしょう。答えてください。この戦いを牽いてるのは師匠ですか?」
「あぁ~ちゃんと気づいてくれたんだぁ~そうだよぉ~この戦いは私が命令してやってるんだよぉ~
これも、悠くんのためだよぉ~
悠くんなら強い敵を自分がって思うでしょう!だから、この場所に来るようにきれいに強い魔物を並べてあげたんだぁ~悠くん以外ここに来るのは無理でしょう~悠くんを今取り巻いてる邪魔な奴らじゃ邪魔になるもんねぇ~もし、悠くんがここに来なくても、魔物が皆を襲って悠くん以外を殺してくれると思ったんだぁ~
悠くんは予想通りここに来てくれたわけだけどぉ~でも最後のはダメェだよぉ~
教えたはずだよねぇ~敵は殺しなさいってぇ~
なのに、なのに、なのにどうして、どうして、どうして!
そんな弱くなってるのかなぁ!」
急に師匠から強力な殺気が放たれ始めた。
俺は、瞬時に師匠から距離をとって剣を構える。
「これも、これも、これも!あの女のせいだぁ!私の悠くんを誘惑してぇ!死んでもなお悠くんを搔き乱してる!
全部、全部、全部台無しにしたぁ!また初めからしないとねぇ~
ねぇ、悠くん」
すると師匠は目の前から消えた。
いや、師匠の動きが俺の目で全く追えていないだけだ。
気配を探ろうにも、師匠は気配を完全に消してる。
とりあえず動かないと!
そう思い、身体に力を入れる頃には師匠は目の前におり、鞘に収めたままの刀が俺の身体に迫っていた。
「にゃー」
すると突然猫の鳴き声が聞こえてきた。
キィーン
師匠の刀は弾かれた。
そして師匠と俺の間に黒猫が佇んでいた。
その黒猫は、ミィナに言われて連れてきていた黒猫だった。
魔獣と戦っている間どこかに消えていたが、どこからともなく現れた。
「なんでぇ神獣がいるのかなぁ~」
師匠は警戒するように、黒猫から距離をとった。
そして黒猫と師匠は睨みあう。
「うぅん?あぁ、そういうことぉ~その神獣の能力に攻撃はないのねぇ~
なら、簡単。獣の分際で私の邪魔したこと後悔させてあげるぅ!」
そういうと師匠は刀を抜き、消えた。
キィーン
キィーン
キィーン
キィーン
師匠が目の前に現れた瞬間、刀が弾かれる音が1秒間に数万は聞こえる。
俺の知ってる頃の師匠より明らかに強くなっている。
そして黒猫の顔が少し苦しそうに見えた。
すると、剣の弾ける音が消え、黒猫が吹っ飛んだ。
そして吹っ飛んだ黒猫を追うように師匠も駆け、刀を振るった。
何を呆けているんだ俺は!
この状況を見てわからぬほど馬鹿じゃないだろう!
動け!
俺は全力で地を蹴った。
キィーン!
先よりも強い音が響く。
黒猫に刃届くまでに黒猫と師匠の間に入ると黒猫に振るわれる刃を弾いた。
刀を弾かれた師匠に容赦なく首を狙い剣を振るった。
師匠は俺の剣を後方へ飛び避けた。
「悠くん、何してるのかなぁ~」
笑顔の師匠からは闘気が放たれ俺を貫く。
闘気に圧倒され、俺はジリジリと後ずさってしまう。
「まぁ~いいや。そっちの獣はもう使い物にならないようだし。
悠くんを連れていく前にお説教しようかぁ~」
師匠はそういうと火を纏った剣先を俺に向けた。




