動き出す戦い~ミィナ編~
ユウが駆ける背中を見送る。
「魔王、これでよかったのよね」
「うむ。ここからはお主ら次第じゃ」
木の陰に隠れていた魔王はそういうと、またどこかに行ってしまった。
「ミィナお兄ちゃんは行きましたか?」
「行ったわよ。でもよかったの?」
私がサヤ達のもとに戻ると、休憩しているサヤがそういってきた。
「よくなんかないですよ。でも、お兄ちゃんのためですから。ミィナはお兄ちゃんをしっかりサポートしてください」
サヤは淡々と言ってくるが、その表情はとても悲しそう。
「始まった…」
サヤ達と話していると、ユウがリミットを解除したのが伝わってくる。
ダージャとの戦いで、私が強制的に解除したのとは段違いにユウの身体に力が入る。
それと同時にユウの身体が悲鳴をあげているのがわかる。
ユウは身体があまり保たないことを理解している。
ユウならリミットを解除しなくても十二分にどんな魔物でも倒せるだろう。
だが、ユウは時間がかかりすぎると考えたのだろう。
ユウが考えている強い魔物は少なくとも5000体以上。
ユウがそれを倒すか倒さないかでこちらの本陣への影響が劇的に変わるだろう。
そして、ユウが掲げる勝利が犠牲なきものなら、せめてその5000体以上の魔物を倒しておく必要があるだろう。
その魔物が私たち本陣のもとに来てしまうまでに…
ユウはだから、体に影響が出てまでもリミットをフル解除したのだろう。
私はすぐにユウのサポートに移る。
((ユウ、今の状態は保って5分よ。それ以上は、ユウの身体が保たない。風の抵抗とか魔物の能力は私が対処するから、目の前の魔物本体だけをユウは気にしていて))
私はユウの位置を観測し、ユウの身体を主軸に魔術を発動していく。
ユウがどういう動きをするかはすぐにわかる。
ユウが地をける瞬間に、地を固定し安定させる。
移動中はユウの風の抵抗を排除する。
ユウが空を蹴ろうとすれば空気を固め足場を作る。
着地前には、重量を操りユウへの身体ダメージ軽減を行う。
魔術を使う魔物には、魔物が魔術を発動する前に魔術式を破壊する。
魔術が発動すれば、発動した魔術からユウを守る。
ユウの身体に負担をかける以上、ユウの身体自体に強化などの魔術をかけることはできない。
だから、ユウの外的要因の排除、外部から補助を行う。
我ながら、ここまで離れてよく繊細に魔術をコントロールできてるって天才だよね。
順調に倒していっていた。
すると、あと1体というところでユウの剣は魔物を目の前にとまった。
((ユウ!何やってるの!))
ユウの目の前には、ケガした小さな子を守る大きな魔物の姿だった。
見ただけでわかる、この魔物は子を守る親の魔物だ。
そして、魔物は警戒しているが襲ってはこないだろう。
そんなことは分かっている。
でも、そのケガした子の魔物と庇う親の魔物は普通ここにいるべき魔物じゃないことも分かった。
子供の魔物のケガはこの場で負ったものだろう。
魔物とユウ以外にその場に生き物はいないだろう。
なら、その子供のケガはなに。
見事に歩けないよう傷を負っている。
魔物による傷ではそんなことにはならない。
意図的なケガだ。
その魔物がその場から移動しないための。
(なぁ、ミィナ魔物が2体ぐらい逃げても大丈夫だろう。それに、ほら襲ってこない)
ユウは剣を鞘に納めてから両手を広げた。
すると、不自然な違和感に気づく。
ユウを取り巻く環境の流れが変わった。
自然の変化はおかしなことではない。
風向きが変わった。気温が少し落ちた。木が不自然に揺れた。空気が淀んだ気がした。
そんな小さな変化。
((バカ!戦闘中に無防備になるな!))
この場には、気配を消していた者がいる。
私はそれを観測するため、周囲を探り始めると…
ユウとの繋がりが途切れた…
「そんな…私とユウの繋がりを切るなんてどうやって…契約は生きてる…繋がり切ったわけではなく、ユウのいるあの場所、空間への干渉を遮断させられたんだ!」
ユウとの繋がりが切れたことに驚いた。
すぐに考え結論は出た。
そして、魔王から聞いていた。
そうなることは。
「動き出したよ!ッ⁉」
私がそう叫ぶと、いきなり魔王が目の前に現れた。
座っていたサヤにリサ、マナは立ち上がり、最前線にいるはずのミレイヤが飛んできた。
「場所は把握しておるか?」
「ばっちりね」
「よし、儂らの本当の戦いを始めに行くとするか」
魔王がそういうと、魔王は魔術で私たちと一緒にユウがいるはずの地点から少し外れた地点に転移した。




