全力を出さないのですか?(6)
ダージャが激突した壁が崩れ落ち、砂埃が周囲に舞う。
砂埃の中から、無数の魔手が迫ってくる。
「させません!」
沙耶の声がすると、迫ってきた魔手は突然消えた。
沙耶が魔術式そのものを消し去り、リサとマナが飛び交う魔手を魔術で防いでくれた。
「鬱陶しいなぁぁ!」
舞っていた砂埃が、吹き飛びダージャが姿を現し俺に突っ込んできた。
俺は、その姿をしっかりと捉えていた。
「フッ!ハァ!」
ダージャが俺の攻撃範囲に入った瞬間、呼吸に合わせ剣戟を放つ。
放った剣戟は、ダージャが腕を振ることで、弾かれていく。
剣戟を防ぎ近づいたダージャは、俺の心臓を捉えた鋭く速い手を伸ばしてくる。
地から足を離し、心臓を狙ってくる手に力を込めた一撃を放ち、弾かれる勢いで斜め上に飛ぶ。
そして、空中の足場を蹴り隙だらけのダージャの背を切る。
ダージャは、前身に力を入れている状態で、上からの重い一撃で、態勢を崩した。
俺が地に足が着くと、態勢を崩したダージャを蹴り上げ、無防備なダージャに剣戟を放つ。ダージャが再び地面に着く前に、数万の剣戟を放った後、思いきり力を込めた一撃を放ち、ダージャを吹き飛ばした。
ミィナのサポートによって、俺が戦いやすい環境を魔術で補ってくれる。
空中に空気を圧縮した足場を創り、地面でも今までの戦闘で不安定な足場を安定させ、力が最大限に発揮できるようにしてくれている。
言葉がなくても、伝わる関係か。
今日会ったばかりの女とそんな関係って…
怖いな…
((悠、戦闘中に余計なことは考えない!圧倒しているとはいえ、まだ殺し合いの最中よ。))
頭の中にミィナの言葉が響いた。
考えていることが共通化されていることで、こういった会話もできるようだ。
((わかっているさ。剣戟もすべて通らなかった。体術で行くべきか…))
((剣戟のダメージは着実に蓄積しているわ。体術は、リスクが大きすぎるからダメ。魔術による攻撃は、すべて3人が対応してくれているけど、魔族の身体に発する魔術は、3人では対処のしようがないから、魔術の防ぎようがないのよ。))
ダージャは、俺と近接している際にも、周囲に魔術を発動し、攻撃しようとしていた。
それを、3人はすべて防ぎ、打ち消してくれた。
だから、俺は魔術を気にすることなく、近接戦闘に集中できた。
だが、体術ともなると直接ダージャの身体に触れるわけだから、リスクが大きいのか…
剣戟で行くしかないか…
いろいろ考えていると、再び壁に激突したダージャがゆっくりと立ち上がる。
「人間風情がぁぁ!調子に乗るなぁぁ!」
ダージャが叫ぶと、周囲の空気を震わせた。
ものすごい闘気に殺気だ。
しかし、そんなものは過去にいくらでも経験してきた。
まだまだ弱いほうだ。
「叫ぶ暇があるなら、抵抗してみろ!フッ!」
ダージャが叫んでいる隙に、ダージャの懐に忍び込み、剣戟を放つ。
「あぁ、くだらない…最初からこうすれば良かった…」
ダージャは、俺の剣戟など気にした様子もなく、ぼやいた。
((悠、離れて!))
ミィナの焦った言葉に俺は、飛びのきダージャから距離をとった。
「はぁぁ、少し早いが、エルフの森を潰すとするか…」
ダージャが言葉を言った途端、ダージャの光から光が放たれた。




