全力を出さないのですか?(5)
目を閉じれば、懐かしい感覚に心が騒ぎ出す。
信頼する人を裏切った。
大切な人達を守れなかった。
詩音を…世界を殺した。
そんな忌々しい力が溢れ出す。
いや、過去を遥かに超えている。
怖い…
全力で戦って負けるのが…
この力で、また大切な人たちを殺してしまうのが…
以前なら、その考えに囚われてしまっていただろう。
だが、なぜだろう。
そこまで恐怖心がない。
神竜であるミィナを感じているからだろうか。
恐怖心ではなく安心感が強い。
もう迷いはない。
俺の力を必要としている人がいる。
何より、大切な彼女たちを守るために。
俺の全力をもって、だれにも負けない最強となす。
「ミィナ。サポートは頼む」
目を開けると、目の前で俺を見つめているミィナに一言いうと、地面に刺した剣を抜き、3人が戦う場所へと向かう為に歩き出す。
先まで力が入らなかったのに、今では普通に力が入り、傷口は塞がっていた。
小さな傷までも消えていた。
「悠、忘れ物よ」
そういうと、ミィナは鞘に納まった剣を投げてきた。
見慣れた剣だった。
以前使用していた愛剣“時雨”そのものだった。
「悠の記憶から創造で創ったものよ。少しの誤差はあるかもしれないけど、そこは許してね」
「完璧すぎるよ…これは、負けられないな…」
俺は剣を鞘から抜き、2本の剣を掲げた。
「魔力量は、私と共有で補填された。傷は治したし、私が完璧なサポートする。負けるのが難しいぐらいよね」
ミィナは、笑って見送ってくれた。
ほんと、負けれないよ…
俺は全力で地面を蹴って、3人が戦っている元へ…
不気味な笑みを浮かべて戦っているダージャへ剣を振りぬいた。
ドォォー!
キィィン!
全力で蹴った勢いは、音速をたやすく超える。
剣の交わる音とともに、地面を蹴った音が同時に響く。
「ッ⁉おかしぃな、お前に動けるだけの力があるとはなっ!」
さすがにいくら早くても、一撃目は受けられた。
「お兄ちゃん!大丈夫なんですか!」
「ユウ様!」
「ご主人様!」
防戦一方ながら、傷を負いながらもいまだ闘志を燃やし続ける3人。
「みんな、すまない。俺が未熟なばかりに…だが、話は後だ!反撃を開始するぞ!後方支援を頼む!」
俺はそういうと、ダージャを力で、吹っ飛ばした。




