全力を出さないのですか?(3)
力が入らない。
痛みが体を走り続けてる。
「戦わなくていいの?」
どこに隠れてたのか、邪竜(人)がピョコっと出てきて言ってきた。
「いいも何もこの状態で戦えると思うか?傷口は痛むし、なぜだか力が入らないし…」
何度も体に力を入れようとするが、全く入らない。
怠さはあるが、体は動く。
しかし、それだけしかできない。
それ以上に力を込めることができない…
「それはそうよ。魔手を丸腰で受けたんだもの。普通は、魔力を纏っておくべきよ。完全に魔力量が空にされてるわね。それに加えて、神経毒が傷口から入ってるんだから、立てるのが不思議なくらいよ」
そんなもん知らんぞ!
魔力を纏うって何だよ!
魔術や魔法の前に魔力とかもよくわからん!
まぁ、毒の影響は大きそうだな…
「そこまでわかってるなら、戦える状態でないこともわかるはずだろ?」
「わかるわよ。少し聞き方が悪かったかしらね。力量差が明らかじゃない。いくら3対1でも、戦略や条件が良くても、あの子達では10分も保たない。死ぬわよ?それをただ力が入らない!ただ傷口が痛む!それだけの理由で、逃げずにあなたを命かけて助けに来たあの子達が殺されるのを何もせず黙って見てるわけ!」
邪竜は起こった様子で俺に言う。
3人はダージャと懸命に戦ってる。
ダージャは、余裕そうに戦ってる…
圧倒的すぎる…
力量差は、3人にもわかってるはずだ…
なのに何で…
「何で戻ってきたんだ…」
俺は、ボソリと呟いてた。
すると、頬を二衝撃が走ると同時に俺は吹っ飛んでいた。
受け身を取れずに壁に当たり座り込んでしまう。
いつのまにか、近づいていた鬼の形相をした邪竜が俺を強く掴んだ。
「それ本気で言ってるの!それすらもわからないの!あなたが死ぬかもしれないからでしょう!自分たちが死ぬよりもあなたが死ぬことが嫌だったのよ!あなたはそれに何も感じないの!あなたが手を抜いてるのはわかってるわよ!無理矢理力をセーブしてるんだから丸わかりよ!どうして全力で戦わないの!」
好き勝手言いやがって…
俺だってわかってる…
全力を出さないといけないことも…
それでも、心がそれを拒む…
本気を出すのが怖い…
本気を出して負ければ、それが本当の敗北だと実感してしまうから…
手を抜いてれば、負けても全力じゃなかったからって思えるから…
本気を出すのが怖い…
本気を出して、それでも大切なものを守れなかった時の無力感が怖い…
怖い…怖い…怖い…
「邪竜は心を読めるのよ!怖い怖いって、子供か!駄々を捏ねた子供みたいなこと言ってんじゃないわよ!ただ自分が可愛くて守ってるだけじゃない!ふざけんじゃないわよ!今すぐ全力で戦いなさいよ!そんなに無様な心晒して、諦めてんじゃないわよ!あなたはまだ生きてる!生きてるのなら戦いなさいよ!戦って、今もあなたのために戦ってるあの子達のために、全力で魔族をコテンパンにしなさいよ!」
「戦えるわけないだろ…こんな体じゃ、負けるだけだ…」
「体が万全なら戦うのね?」
先まで怒ってた邪竜がニヤリとした。
「あなたの過去と全力見せてもらうわよ」
そう言うと、突然顔を近づけてきた。
「ッ!」
そして、唇を奪われた…




