全力を出さないのですか?(2)
黒いものが2つ俺の身体を貫いた。
ダージャを斬ったからといっても、周囲への警戒を怠ったわけではない。いや、いつも以上に警戒していたはずだ。
なのに、気配も何も感じなかった。
何かが動く気配すらなかった。
モノが動けば空気が動く、それは魔術にも似たような感じが感じられた。
だから魔術に疎い俺は、その気配で魔術の動きを読もうとしていた。
魔術にも空気に干渉しないものはあるが、直接的な攻撃能力はないと思っていた。
あぁ、そうか。これが怠慢というやつか。
この魔術を読める感覚に、魔術の知恵がないくせに不思議なくらい自信があった。
魔術の知恵がなくても、魔術に対抗できる。そんな怠慢が生んだ結果だ。
今考えれば、空気に干渉しないものなんていくらでも考え付く。
地面に触れた瞬間に爆発とか、地面そのものの変化。実際に、さっき動けなくされたばっかりではないか。
師匠がこの場にいたら、激昂するだろうな。
俺は崩れ行く中、そんな事ばかりが頭に浮かぶ。
“負ければ失うぞ。何もかもをな”
そんな師匠の何気ない言葉が頭をよぎった。そして、俺を挑発するような師匠の嫌な笑みが頭に浮かんだ。
その途端、胸が熱くなった。
剣を地面に刺して、身体を支えた。
「くそぉぉ!」
膝をつけば、その時点で負けが確定する。
失いたくなければ勝てばいい。ただそれだけだろ師匠。
俺は勝つことを欲する。
「まだ立てるか。だが、もう戦える状態ではないだろ?」
後ろからそんな声が聞こえた。
そして、俺の目の前まで声の主がきた。
ダージャまだ生きていたのか…
確かに斬った感覚があったのに無傷かよ…
「あぁ、そうだな。刺されたところは血が流れてるし、体に力すら入らない。満足には戦えないだろうな」
俺は、自らの状態を確認しながら今の絶対的不利な状態を嫌でも理解してしまう。
だが、刺されたはずの2カ所ではなく1カ所だけ傷があり血が出ていた。
「そうだろう、そうだろう。今のお前なら簡単に殺せるだろう。だが、お前を殺すのは後の様だ…」
「ダージャァァ!お兄ちゃんに何をしている!」
そんな叫びが聞こえてくると同時に部屋全体が一気に凍り、強い風が吹き抜けると、目の前にいたダージャが吹っ飛んだ。
そして、今目の前にいるのは、怒り心頭の沙耶だった。
「お兄ちゃん大丈夫です?」
「ユウ様血が!?私たちだれも治癒が使えませんし…こんな時、治癒を学ばなかった自分が腹立たしいです…と、その前に止血はしておかないと!」
そんな沙耶の後にリサとマナが走って俺のところに来る。
そして、リサはどこにしまっていたのか薬草を取り出して、傷口に塗りこんでくる。
「イッ!」
「我慢してください!早く止血しないと!」
テキパキと応急処置やっていくと、最後には布を巻いて終わった。
「お兄ちゃんは、そこでジッとしておいてください。後でお説教しますので。死ぬことは許しません」
「では、マナ私たちも行きますよ。ユウ様の仇をとりましょう」
「殺ってやるです~」
そういう3人からの殺気がものすごくやばかった。
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