懐かしい人…
遥か遠くまで続く草原の中に俺は立っていた。
とても懐かしい感じがする。
俺はそう感じると、横を見た。
そこには、黒い髪を肩まで伸ばした少女がいた。
「ッ!し…詩音!」
俺の横にいたのは、俺の愛おしい人。詩音だった。
その姿を見ると、詩音に抱きついた。
「え?」
そこに、昔のような温もりも感触もなかった。
「ユウくん、ここはユウくんの夢なんだよ。私は、その夢の中での幻影でしかないよ」
声は聞こえる。姿も見える。なのに、俺はもう愛おしい人をこの手で触れることはできない。
詩音を殺したのは、俺なんだから…
「ユウくんが何を悩んでるかは分かってるよ。これでも、ユウくんの彼女だったんだから分かっちゃうんだよ。だからこれだけは忘れないで。ユウ君幸せになって」
あぁ、夢の中でも詩音はそんなことを言うのか。
詩音が最期に残した言葉“幸せになって、ユウくん”
夢でぐらい俺を責めてくれよ!
お前のせいで死んだんだって!
お前が殺したんだって!
なんで!なんで!なんで!
「ユウくんは私に幸せを教えてくれた。ユウくんは私を救ってたんだよ。短い間だったけど、ユウくんの彼女でいられてとても幸せだったよ。だから、彼女たちにも教えてあげて。幸せを。
ほら、ユウくん。前を向いて。
ユウくんが救った彼女たちが待ってるよ。
いつまでも、夢に捕らわれていていちゃダメだよ。そうしないと、私からもお説教しちゃうよ。
ほら、笑って。そんな泣き面だと、彼女たちが心配するよ。
次会えたら、その時はいろんなお話聞かせね」
そういって、詩音は俺の背中を押した。
感触はないのに自然と足が前に出た。
「またね、私の愛おしい人」
すると、俺は先までの草原が一瞬で消え、詩音もいなくなった。
そして、俺は光に包まれた。
「お兄ちゃん!」
「ユウ様!」
俺が目を開けると、俺はベッドの中にいた。
すると、沙耶とリサが抱きついてきた。
夢か。あれは、俺が作り出した幻想だったのかもしれない。
でも、詩音なら本当にそう言ってきそうだ。
詩音、やっぱり俺が幸せになるようなことは許されないよ。
でも、彼女たちの幸せは絶対に守る。
そう、俺は頭の中でつぶやき、そっと沙耶とリサを撫でた。
「と、そうだ。2人ともどうしたんだ?」
「どうしたんじゃないです!お兄ちゃんが急に倒れたかと思ったら、涙を流し始めますし、もう心配したんですよ!」
「ユウ様は、魔力を限界を超えて使用したのでしょう。魔力を使い切った際に、それ以上の力を使うために生命を媒体にしたのでしょう。
ユウ様、これからは魔法の使用を禁止します。これは絶対に守ってください。
普通は、魔力を限界以上に使用するなんて無理なんですよ。魔力が一定以下になると、疲れや気だるさそして、酷ければ体に激痛が走ります。
ユウ様をそれに気づかなかったのなら、魔法の使用はユウ様の命を奪いかねません。
ですから、使用しないでください!
心配したんですから」
あぁ、リサに初めて本気で怒られてしまったな。
それだけ心配させてしまったんだろうな。
「あぁ、約束しよう。できるだけ、魔法は使わない。
心配かけたな。ごめんな」
「できるだけじゃありません!制御できるまではダメです!
今回は、私たちが使うことを勧めてしまいましたから…」
リサがそういってくるが、俺は答えずに頭を撫で続けた。
「もう…答えてくださいよ…」
そういえば、あの子はどうなったんだろうか?
「あの子が心配ですか?」
「ここにいますよ」
そういうと、俺にかけてある布団を静かにめくった。
「スゥースゥー」
そこには、俺の服を掴みながら、小さな寝息をたてている少女がいた。
この子を運んだ時はよく見てなかったが、耳が長くとがっている。
エルフか。
この世界にきて初めて見るな。
街でも、エルフを見たことがない。
それに、白く長い髪に白く透き通るような肌。
先まで巻いていた包帯は全て外されていた。
おそらく、沙耶とリサが怪我を確認してくれたんだろう。
「この子はもう大丈夫です。怪我もすべて治っていましたよ」
「どうしてお兄ちゃんは、この子をあんなに必死に助けようとしたんですか?」
そら聞かれるよな。
「可愛い子だったからだ!」
パァーン!
沙耶とリサ2人に頭を叩かれた。
「はぁーいいですよ、言いたくなかったら言わなくても」
「そうですね」
そう言いながら、2人は少女の頭を優しく撫でた。
なんだかんだで、優しいもんなこの2人。
まぁ、なんで助けたかというと、この子が苦しんでる姿に詩音の姿が重なったからだ。
姿が重なった瞬間、もう俺は動いていたしな。
見た目も全然違うのにな。
何でだろうな。




