絶対に助けます!
俺は1人で、アルトリアの街を歩いていた。
アルトリアは、王都よりも小さいが、勝るとも劣らない賑わいがある。
それに、ケモノ耳や尻尾がある獣人族、小柄なドワーフ等多種多様の種族がたくさんいる。
リサからは、何かあればと金貨20枚貰っている。
俺は、気ままに歩いていくと、少し雰囲気の変わった通りにでた。
先までの賑わいとはまた違った感じである。
こ、これは、いわゆる花街では!?
その通りには、娼館が多く立ち並んでいた。
金貨20枚あるよな…
俺がそんなことを考えていると、急に悪寒が走った。
そして、沙耶とリサの鬼の顔が目に浮かぶ。
こんなところにいったのバレたら殺されかねない。
バレた時のことを考えるだけで震えてくるわ!
俺は、花街から少し外れる為に小路地に入っていった。
ここは、暗いな。
周りは建物で囲まれているからか。
そう思いながら歩いていると、黒い幕で入り口を覆った店屋があった。
「旦那、少し見ていかねぇですか?今日入りたてのもあるんですぜい」
その店を通り過ぎようとしたら、なんかいかにも怪しげな男に声を掛けられた。
「ここは、どういう店なんだ?」
「入ってみれば、分かりますぜ」
そういわれて、俺は興味本位でその店に入った。
そして、中にはこれまた、暗い感じのホールがあり、そこから、部屋がいくつかあった。
「旦那、こっちですぜい」
その男は、そういうと右端にあった部屋を空けて案内してくる。
俺は、一様警戒して剣に手をかけながらも、案内された部屋に入った。
「こ、これは!?」
「種族も多種多様に揃ってますぜい」
入った部屋には、牢獄のような檻で囲まれた中に複数の人が入っていた。
ここは、奴隷店だ。
俺は、興味本位で入ってきたことを後悔した。
こんなの見たくなかったな。
だからといって、俺がここで暴れて店をつぶしたところで、この子達は救われないし。俺は、何も出来ないな。
「もういい。帰るわ」
俺は、自分に対する怒りを抑えながら、部屋を出ようとした。
「ゴホッ!ウッ!ゴホッ!」
ペチャ…
パサ…
誰かが咳き込んだと思ったら、何か液体が落ちる音がして、人が倒れる音がした。
俺は、急いで音がしたほうに駆けていった。
そこには、右耳が千切れ、目は包帯で覆われており、右足に右手が無い少女がいた。
右腹にも包帯が巻かれており、血がにじんでいる。
その少女は、床に血を吐きその場に倒れて、苦しそうに息をしていた。
酷い怪我だ!息が浅すぎる!
「あぁ、これはダメですぜ。おい!こいつを処分しろ」
男がそういうと、部屋の置くから3人の男が出てて、少女がを抱えて連れて行こうとした。
「待て…待てといっている!」
「旦那?」
「その子をどうするつもりだ?」
「どうするって、処分するんですぜ。今日入ってきたものですが、魔物に襲われて、身体に欠陥があり、いつ死んでもおかしくなかったんですぜ。死んだものをここにおいていては、菌が繁殖して、他の製品にも影響が出るかも知れねぇんで、先に処分するんですぜい」
俺はそれを聞くと、その男に掴みかかった。
「何が製品だ…」
「旦那?」
こいつに怒っても仕方が無い。
それよりもあの少女だ。
「そいつは俺が買う。いくらだ?」
「いいんですかい?もうし…」
「くどい、買うといったんだ早くしろ!」
早くしなければ、本当に死んでしまう。
「分かりやした。なら、奴隷契約をしましょう」
「その契約は、その子に負担はかからないのか?」
「いえ、負担はかかりやす」
「なら、却下だ。購入手続きだけしてくれ」
「ですが、それだと逃げたり、旦那に危害を加える可能性が…」
「この少女にそれが出来ると?」
「いえ…分かりやした」
男はそういうと、先ほどのホールに行った。
俺は、その少女を持っている3人から少女を受け取り、
その少女を抱いてホールに行った。
男は、俺に1枚の紙を渡してきた。
「購入の無いようですので、問題なければ、サインか血判をお願いしやす」
俺は、その紙を見るが何が書いてあるかさっぱり分からん。
が、今はいい。
名前は、まだかけないから血判だな。
俺は、剣を抜き自分の指に軽く当てた。
血が少し出ると、紙に押した。
「これで購入完了ですぜ。何かあれば、いつでも…」
俺は、男の発言を聞かずに少女を抱いたまま、店を飛び出た。
時間が惜しい。
病院みたいなところがあればいいが、どこにあるかは分からない!
俺は、応急処置程度は出来るが、そんな処置だけで命をつなげれる怪我ではない。
なら、魔術なら?
魔術の知識を持つ沙耶とリサなら、何か出来るかもしれない!
俺は、そう考えると沙耶達の元まで全力で走った。
抱える少女に負担がかからないように気を使いながら。
街を走っている時には奇妙な目で見られ、
宿に入ったときは、店の子に不思議な目を向けられたが、普通に通してくれた。
でも、そんなことは気にしている余裕はなく、俺は沙耶とリサのいる部屋を勢い良く開けた。
「もう、お兄ちゃん、そんな勢い良く扉開けないでください」
「ユウ様、乱暴すぎますよ」
良かった、2人とも起きていた。
「ユウ様、抱えてる子はどうされたのですか?」
「お兄ちゃんがついに犯罪に手を染めてしまいました」
「いやいや、説明は後でするから、それより傷を癒す魔術とか無いか?」
俺がそういうと、2人は顔を見合わせ俺の抱えてる少女をじっくりと見て、考えてくれた。
「そうですね、光りの魔術で治癒は出来ますが」
「その子は、身体の欠損が激しいです。傷は塞がっても、失った血と身体は治されないので、命が助かるかは分かりませんが、多少なりとも命の延命にはなります」
「ちょうど、私達も魔力が半分ほどに回復したので、とりあえず魔術をかけます」
沙耶とリサはそういうと、少女に手をかざした。
すると、少女の身体が光に包まれた。
「お兄ちゃんはこの子を助けたいんですか?」
「あぁ」
「なら、この子を助けれるのはお兄ちゃんにしか出来ないと思いますよ」
「そうですね、魔術ではどれだけ高度な魔術式を構築しても限度があります。それは、術式として描くから限度があるんです。
なら、術式を無視できればその限度はなくなります。ユウ様が使えるのは、魔法、奇跡の力なんです。
限度がなく、果てしない可能性を持つ力ですよ。
この子を救いたいのなら、ユウ様、創造してください。この子に奇跡を与えてください」
そうか、魔法は創造して発動する。
俺は1度、魔法を使っている。
出来るはずだ。いや、やらなければこの子が死んでしまう!
俺は、集中する。
周りの声も音も全てを遮断し、創造することだけを考える。
今必要なのは、癒すことだ。
傷を癒し、身体を癒し、心を癒す。
完全なる治癒だ。
「完全治癒」
俺はそう呟くと、俺が抱いてる少女の身体が、先よりも強い光で包まれた。
光が収まると、その少女の身体には、右手があり右足があり、耳があった。
そして、先までの苦しい呼吸が嘘のように、安らいだ呼吸をしていた。
「良かった…」
そして、俺はそのまま意識を手放し倒れた。
「お兄ちゃん!?」
「ユウ様!?」
沙耶とリサが俺を呼ぶが、俺には届かなかった。




