街だ!…2人は?
「お兄ちゃんは、私とリサ、どちらに抱かれたいですか?」
「は?何い…」
「答えは聞いてません!抱くのは私です!」
沙耶はそういうと、俺に突っ込んできたと思ったら、
俺の足を払い、俺の態勢を崩してきた。
突然のことに俺は、反応できず倒れると思ったら、沙耶が俺を膝から抱え、空へ高く飛んだ。
「サヤ、少し乱暴じゃありませんか?」
そう言いながら、リサもそのあとを追うように空に飛んできた。
えっ!何この子たち!?
なんで普通に空飛んでんのさ!
それで、俺はこんな恥ずかしい格好をさせられてるんだ!
俺は、沙耶にいわゆるお姫様抱っこをされていた。
「何で!?」
「何がですか?それと、暴れないでくださいね。手が滑って落ちちゃうかもしれないですから」
沙耶がそういうと、俺はピタッと動きを止めた。
今飛んでるのは、空に浮かぶ雲を横切っている高さだ。
流石に、この高さから落ちたら洒落にならん!
「沙耶さん、落とさないでください」
「そんな、落としませんよ。でも、お兄ちゃんがギュッとしてくれたら、絶対落としませんよ」
沙耶が、にこやかに俺を見た。
これは、落ちないためだ。
そう自分に言い聞かせ、俺は沙耶に抱きついた。
「あぁ、なんて幸せなんでしょうか。もうこのままどこまででも行ってしまいたいです」
「サヤ、ずるいです…」
「勝者の特権ですよ」
ん?勝者の特権?
「なぁ、そろそろ教えてくれよ。どうしてこうなったんだ?というか、なんで普通に飛んでんの!?」
「そうですね、今飛んでるのはもちろん魔術です。風を体全体に覆って、その力を利用して飛んでいるんですよ。こうして飛んでいても向かい風を感じないでしょう。それは、私を覆ってる風が、向かい風を防いでるんですよ。
昨日、お兄ちゃんとチビが暴れていた時に、私たちは魔術の勉強と特訓をしてたんです。
妖精の森は、予めリサに聞いてましたし、地上の敵を殲滅しながら行くより、手っ取り早いでしょう。
ですが、問題はお兄ちゃんでした。剣ばかりで、魔術も魔法も勉強しないお兄ちゃんに空を飛べるはずがありません。
だから、どちらが運ぶかリサと勝負したんですよ。
飛行の持続時間と魔力の消費での勝負でした。
そして、私が見事勝利したんですよ。
そうして、こうして抱えてます」
「私も全力で頑張ったんですが、サヤに負けてしまいました…
ですが、次は勝ちますから!」
「えぇ、いつでも受けて立ちますよ」
あぁ、沙耶とリサの仲の良さは分かったよ。
良いパートナー何だろうなこの2人は。
だが、今はそんなことどうでもいい!
俺は何よりもこの格好に意義を唱えたい!
「サヤ、飛んでる方法も理由も分かった。だが、なんで俺はこんな格好をしているんだ?
せめて、おんぶが良かった!そっちの方がまだ傷は浅かったはずだ!」
「私がしたかったからです。それに、お姫様抱っこって女の子の憧れじゃないですか」
「女の子の憧れはされる方だろ!する方を憧れてどうする!」
「するのも良いものですよ。ですが、お兄ちゃんにされるお姫様抱っこ、良いです。今度してください」
「あっ!サヤ、ズルいですよ!ユウ様、私にもしてください!」
何でこうなった。
そんなことを言ってると、前に空を飛んでいる生き物が見えた。
「沙耶、あれって?」
「ドラゴンですか?」
「あぁ、違いますよ。あれは、“ヒューラ”っていう魔物ですよ。魔獣よりも格上なので、オークのような魔獣よりも強いですよ。それと、魔獣と魔物の違いは、強さの違いが大きいです」
なるほど、オークよりも強いのか。
「って、やばくないか!空中戦とかできんの!?俺、動けないんだけど!?」
「お兄ちゃんは、何もしなくていいですよ。私たちが倒します。
見たところ、12体ですね。さぁ、リサどちらが多く倒せるか勝負しましょうか」
「望むところです!」
えっ!この子たちまでも戦闘狂になってきてないか!
「すべてを凍てつくしなさい氷王」
「燃やし尽くします!炎星」
沙耶とリサが同時に叫ぶと、2人の目の前に魔術式が瞬時に構築された。
そして、沙耶が構築した魔術式からは白い何かが。
リサの構築した魔術からは、巨大に燃え上がる焔が、ヒューラを襲った。
沙耶の放った魔術が周囲のヒューラを凍らしていく。
そこに、リサの放った巨大な焔がぶつかり爆発した。
なんということでしょう。先ほどまで群がっていたヒューラの群れが、跡形もなく消え去りました。
これぞ、匠の技…って、ちがーう!
「いやいや、どんだけ威力あるんだよ!てか、魔術で扱える元素に氷なんてないだろ!どうやって使ってんだよ!?」
「何言ってるんですか、空気中の水分と熱を操作すれば使えますよ。いわば、複合魔術です。
それに、威力は普通ですよ。はぁ、6体しか倒せませんでした」
「むぅ、今回は引き分けですね」
「まだ、敵はいます。次ですよ、次」
いやいや、ほぼ元素無視してんじゃん!知識で、使える元素以上の能力発揮させるとかどんだけだよ!
それが普通みたいに言ってるけど、普通じゃないだろ!威力も絶対普通じゃない!
そうしながら、沙耶とリサは魔術で敵を倒しながら…
いや、虐殺にも見える。沙耶とリサは、魔物や魔獣の姿を見つけるとすぐに魔術を放ち、倒して行った。
敵がこちらにも気づいてないのに。1撃で…
敵に同情するぞ。
そして、そうしながらも、俺は沙耶に抱えられて見守るしかできなかった。
そして、大きな壁で囲まれた街が見えてきた。
「あれです。あれが、アルトリアです」
リサがそういうと、街の少し離れたところで地上に降りた。
「はぁ、155体ですか…」
「私も155体です…」
2人は、地上に降りるとひどく疲れていた。
どれだけ魔術放ってんだよ!てか、どんだけ倒してるんだよ!
俺は、沙耶に下ろしてもらい、地上を踏みしめた。
あぁ、やっと地上だ!
何よりも恥ずかしかった!
そうしながら、俺たち3人はアルトリアの門へ向かった。
「冒険者か?身分証の掲示をお願いする」
すると、門にいる騎士が入門の確認を行っていたので、ギルドカードを見せた。
騎士は、ギルドカードを見るとすぐに通してくれた。
「まずは、宿を探しましょう」
「そうですね、とても休みたい気分です」
街を堪能するって言ってたのに、疲れ切ってるじゃないか。
まぁ、予定よりも早く着き、半日もかからなかったけどな。
そうして、俺たちは一つの宿を見つけて入った。
「いらっしゃいませ」
これまた、ふさふさの耳と尻尾を持つ可愛らしい女の子が出てきたな。
緑の髪に緑の目。犬のような耳に尻尾か。
モフモフしたい!
「グッフ!」
すると、両脇を沙耶とリサに殴られた。
「お兄ちゃん、私たちは疲れているんです」
「そんなときに、別の女にいやらしい目を向けないでくださいね」
うっ!
いつもにまして、二人がきつい。
「お客様大丈夫ですか?」
「お兄ちゃんは大丈夫です。すぐに復活しますよ。それよりも、3人で泊まりたいのですが?」
「あっ、はい、3名様ですね。2人部屋が1つと、1人部屋1つにしますか?それとも、3人部屋にしますか?」
「「2人部屋1つと、1人部屋1つで!」」
なんだ、沙耶とリサが勢いよく答えたな。
「リサは、一人で寝てくださいね。私はお兄ちゃんと寝ますので」
「何言ってるんですか。一人で寝るのはサヤですよ。私がユウ様と寝ますので」
「兄妹水入らずの時間を邪魔しないでください」
「サヤこそ、ユウ様と私の愛する時間を邪魔しないでください」
そう言って、沙耶とリサはにらみ合った。
店の子が困ってるじゃないか。
アタフタしてるぞ。
「まぁ、今回は引き分けでしたし、いいでしょう」
「そうですね」
「「3人部屋でお願いします!」」
何なんだ、この2人は!
「かしこまりました。では、2階に上がって、右手直ぐの部屋です。食事は、階段を下りて左手にありますので、そこでお願いします」
この子も普通に対応したな!
そうして、俺たちは今日泊まる部屋に入った。
沙耶とリサは、すぐにベッドに倒れこんだ。
「魔力がもうありません…」
「私もです…」
2人は力尽きたようだ。
俺はどうしようかな。
せっかくだし街を見てくるか。
そう思い、俺は1人で宿を出て行った。




