妹、お兄ちゃん想いなだけですよ?
~如月 沙耶side~
お兄ちゃんがリサのところに向かって走っていき、その姿が見えなくなったところで
水蛇を防いだであろうルクスの方を見る。
「まさか、ここまで魔術の才に恵まれているとは。だが、お前一人で何ができる。すぐにお前を殺してお前の大切なお兄ちゃんを殺してやろう。あの世で兄妹仲良くしてな。炎弾〈ファイヤバレット〉」
また、先の炎の弾丸が襲い来た。
私は先ほどと同様に魔術を構築し、防ぐ。
「その程度で私を殺そうと?笑わせないでくださいよ。言葉を発しないと魔術式1つも描けない雑魚キャラが何言ってるんですか。もしかして、展開する魔術を教えてくれてるんですか?」
ルクスは、常に魔術を構築するために、その術式を創造できる言葉を発している。
おそらく、そうしないと明確な魔術式を描くことができないからだ。
そして、発動する魔術は1つだけ。
そうか、ルクスって頭が悪いんですね。
「ぷっ。」
あ、戦闘中にそんなこと考えてしまうと笑い堪えれなくなってしまいました。
「貴様!私を愚弄するか!」
笑ったの聞こえてしまったんですね。
顔真っ赤にして怒っちゃってますよ。
「愚弄するも何も、数時間勉強しただけの私ですら、複数の魔術を展開できるんですよ。
というか、同じ魔術いつまで使ってるんですか。もしかして、それしか使えないんですか。ぷっ。」
「いいだろう、いいだろう。もう遊びは終わりだ。その汚い口を閉じろ。」
そういうと、ルクスは炎弾の魔術を消すと、腰に携えていた剣を抜いた。
「纏炎〈ブレイブ〉」
ルクスがそういうと、ルクスの持つ剣が炎に包まれた。
「私はもともと剣術を得意とするんだ。死ね!」
そういうと、ルクスは私に剣を振るってきた。
剣術得意とするんなら、最初から剣術使って戦えばいいじゃないですか。
それに、真っ直ぐ突っ込むって、ほんとバカですね。
ルクスが振るった剣は私の体に到達する前にはじかれた。
この人本当にバカですね。いえ、それ以上ですよ。
炎弾〈ファイヤバレット〉を防いでた魔術を展開したままなのにそこに向かって突っ込むなんて。呆れて言葉が出ないですよ。
「なんなんだ、お前は!私の纏炎で強化した剣を防ぐなんて。」
ルクスは、態勢を立て直しこちらに剣を構える。
確かに、剣術はできるみたいですね。
先ほど突っ込んできたスピードも速かったですし、はじかれた後の態勢の立て直しが瞬間的でしたね。
でも、バカなのに変わりはないですが。
「それを戦闘中の相手に聞きますか。でも、教えてあげます。優しい私に感謝してくださいよ。
私が展開している魔術は、周囲の空気を圧縮し、強固な空気の壁を創りあげてるんですよ。
そうですね、技名は空壁〈アイギス〉とでも言っておきましょうか。」
「そんなの絶対的防御じゃないか…」
確かに、あれほどまで攻撃を防がれたとなればそう思っても不思議はありません。
ですが、そんなチートじみたことはできません。
空壁は、空気の圧縮を起こす。魔術の展開を誤って、自分を囲むようにしてしまえば周囲の空気がなくなり窒息死してしまいます。だからと言って、相手を空壁で覆うこともできないでしょうね。
調整が結構難しんですよ。
魔力は常に垂れ流しですし。
だから、今空壁を展開してるのは私の前方だけ。空気は目では見えないので、おそらくルクスは、全方位に展開してるものだと思っているのでしょう。
もし、前方だけに展開しているのがバレて後方から攻撃されたら、私は空壁を瞬時に発動させることはできないでしょう。
だって、仕方ないじゃないですか。調整が難しんですから!
ですが、ここでルクスが諦めてくれればお兄ちゃんのところにすぐに行けます。
「どうです、あなたの弱さ理解しましたか、雑魚キャラ。」
「くっ!あぁ、理解したとも今の私では貴様に一撃入れることもできんだろうな。だが、今の私ならな。」
ルクスは、嫌な笑みを浮かべポケットに手を入れた。
すると、真っ黒な小さな石を取り出した。
すると、その石を口に入れ飲み込んだ。
この人、バカを通り越してお悪しくなってしまったのでしょうか。
そう思うと、ルクスの様子がおかしくなった。
「うっ、うっ、うあ゛あ゛あ゛!」
苦しみ始めたと思ったら、急に叫んだ。
すると、ルクスの身体が徐々に大きくなり、先までの大きさを一回り以上大きくなっていた。
そして、体の色か赤くなり頭から1本の角が生えていた。
これは、少しまずいですかね。
私の頭は危険信号を発していた。
明らかに先ほどとは違う。
というか、ルクスの体から火出てるんですけど!
お兄ちゃん、ごめんなさい、お兄ちゃんのところに行くの少し遅くなりそうです。
お兄ちゃんに頭の中で謝りながら、私は気を引き締めた。
「コロス、コロス、コロス。」
ルクスはこちらを睨み突進してきた。
まるで、獣ですね。こんな巨体なのにスピードが速い。さっきよりも速いですね。
瞬間に私の目の前にルクスが現れると、空壁を貫き殴ってきた。
「二風〈ツバイン〉!」
ルクスの拳が当たる前に私は、お兄ちゃんにあてた威力よりも少し強くしたニ風を瞬間に発動させ、
風の影響で後方に飛んだ。
流石に危なかった。まさか、空壁すらも貫く威力なんて、あんなの直撃したら私死んでしまうんじゃ。
一瞬私の頭に「死」の一文字が浮かんだ。
いえ、そんなこと考えてはダメです。
この戦いに勝利してお兄ちゃんに褒めてもらうんです!
これは、決定事項です!
「すべてを食い尽くしなさい水蛇〈タンニン〉!」
水蛇はルクスに直撃するかと思ったが、腕の一振りで振り払われた。
結構、自信ある攻撃だったんだけ、あんな軽々払われると、イラっと来ますね。
「コロス、コロス、コロス。」
水蛇を払うと、ルクスはまたこちらに突っ込んできた。
「二風〈ツバイン〉!」
私は、回避のためにルクスの脇をすり抜けてるルクスの後方を取った。
「風刃〈フウジン〉!光糸〈リヒト〉!」
ルクスに風の刃が襲う。しかし、ルクスはそれに反応し、振り向くと同時に右腕で薙ぎ払った。
ボトッ。
重いものが落ちる音がした。
ルクスの右腕がその場に落ちた。
私が展開したのは、風の刃と光の糸。
風の刃は囮でそれを薙ぎ払う際に動く腕の軌道をよみその先に光の糸を展開していた。
そして、ルクスは自分の力によって腕を切り落としたのだ。
よみがあってよかったです。
ですが、もうそろそろよさそうですね。
「コロス、コロス、コロス。」
「いえ、もう私を殺すことはできませんよ。だって、もうチェックメイトなんですから。」
私は、回避とほかの魔術を使いながら、本命の魔術を頭の中で構築していた。
そして、準備は整った。
私は、意識を集中させた。すると、ルクスのまわりの空間を埋め尽くす大小様々な魔術式が展開された。
「堪えれるものなら、堪えてみてください!光華〈コウカ〉!」
私がそう叫ぶと、ルクスを取り巻く魔術式から一気に光が現れ、強光がルクスを覆った。
ゴォォ。
凄まじい地響きとともに、衝撃波こちらまで届いた。
そして、光が収まるとそこには息絶えたルクスがいた。
「あなたがいけないんですよ。お兄ちゃんに手を出そうとするから。
あの世で、悔いてください。お兄ちゃんに手を出したこと。その妹の私を敵に回したことを。」
私は変わり果てたルクスを見下ろしそういった。死んでるんですから、聞こえてないでしょうけど。
初めて、人を殺してしまいましたけど、お兄ちゃんを殺そうとしたのですから、自業自得ですね。
「あっ、そういえば、バカって死んでもバカなんでしょうか?」
そう言いながら、私はお兄ちゃんがいるであろうリサの部屋に向かって歩いて行った。




