お兄ちゃんのために
くそ、痛てぇ。
油断した。魔術に対して、知識がないのに人の気配ばかりに気を配りすぎていた。
この世界にはそういった力があることを念頭に置いとくべきだった。
そう考えながら、俺は爆炎の先を警戒しながら体の負傷具合を確認した。
よかった。直撃したが打ち身が数か所だけだ。骨は折れてないし、なにより体がまだ動く。
爆炎が晴れてきた。
するとそこから現れたのはガタイの良いおっさん。ルクスだった。
「直撃したと思ったが、まだ動けるとはな。」
「あぁ、身体の丈夫さには自信あるんだよ。」
「みたいだな。だが、次で仕留める。」
何か来る。そう思い回避行動をとろうとした。だが、体が動かなかった。
「炎拘束〈ファイヤバインド〉。すでに、貴様の動きは封じてある。これで、避けることも防ぐこともできないだろ。」
手足に赤々しい炎が纏わりついていた。熱くはないが、いくら力を入れても動かない。
「くっ。」
「炎槍〈ファイヤランス〉。射貫け。」
ルクスが俺にてを向けた。その前には魔法陣が構築されていた。そこからは、炎でできた槍が出てきた。
ルクスはそれを持つと、俺に向かって投げてきた。
あれ!槍って投げるもんだったけ!
そんなことを思いながらも、俺は俺の心臓に向かって飛んでくる槍を見ていることしかできなかった。
今まで、積んできた鍛錬は何だったんだ!
今回は絶対に守ろうと思ったのにこれかよ!
リサを守るって、俺は自分の中で決めたんだろうが!
まだ、リサを守れてねえだろうが!
くそ、こんなんじゃあ詩音にも師匠にも顔向けできねえよ。
それに、今死んだら沙耶が悲しんでしまう。
いろんな考えが頭を巡ったが、最後には浮かんできたのは沙耶の悲しむ顔だった。
炎槍はもう俺を貫こうとしていた。
ごめんな、沙耶。リサ。
「何を諦めてるのですか。」
一つの声が聞こえた。
そして、俺の前には魔術が構築されていた。
炎槍は、その魔術に防がれ俺に届くことはなかった。
声がした方を見ると、部屋の扉を開けてこちらを見ている沙耶がいた。
「バカな!いつの間にいたんだ!」
「お兄ちゃん、何を死を覚悟してるんですか。まぁ、今はいいです。後で説教ですからね。
まずは、これをどうにかしましょう。状況を説明してください。」
沙耶は、ルクスの言葉を無視して俺のもとまで歩いてきた。
「任務開始だ。おそらくというよりも確実にルクスは向こう側だ。そして、ガリヤはリサのもとに行ってるはずだ。」
「クックク。私を無視するとはね。でも、あってますよ。任務というのが何かは分からんが、私は貴様らの敵だ。キサラギ ユウ。私はお前の監視を行っていたが、どうやらガリヤ様の邪魔をしようとしていたのでな、ここで始末する。炎弾〈ファイヤバレット〉」
そういうと、ルクスは魔術を複数構築し、そこから数十の炎の弾丸が俺たちに向かってきた。
「ペラペラとしゃべってくれるものですね。それと、無視していたのではないですよ。雑魚キャラの発言していたので、それに対応するのも面倒です。」
沙耶は、話しながらも魔術を構築していた。先は、俺を守るように出ていた魔術が次は、巨大になり俺たち二人の前に構築され、炎の弾丸を防いでいった。
「沙耶、魔術使えるのか!」
「魔術の基本は覚えました。限られた元素を扱うというのは覚えることが少なくて簡単でしたよ。あとは、それを頭の中で創造するだけです。リサが教えてくれたことですよ。
それより、お兄ちゃんはいつまでここにいるつもりですか。リサを守りたいんでしょう!
そのためにお兄ちゃんはこんなことしてるんでしょう!なら、早くリサのもとに行ってあげてください。」
「だけど、ルクスは…」
「お兄ちゃん。私をもっと頼ってください。私はいつまでもお兄ちゃんに守れる存在じゃないんですよ。
お兄ちゃんと一緒にもう戦えるんですよ。そのために、魔術を勉強したんです。
だから、私を信じてください。私は、お兄ちゃんの妹ですよ。」
「沙耶…」
「道は私が開きます!
お兄ちゃんの道を開けなさい雑魚キャラ!すべてを食い尽くしなさい水蛇〈タンニン〉。」
沙耶は、俺たちを守ってる魔術はそのままで、新たな魔術を構築した。
沙耶が、叫ぶと水でできた巨大な蛇が術式より飛び出し、ルクスが展開していた魔術をすべて食い尽くしながら、ルクスへと向かっていった。
「お兄ちゃん今です!」
「おう、サンキュ沙耶。気を付けてな。」
俺は、沙耶の合図とともにリサの元へ向かい駆けだした。
「お兄ちゃんこそ、気を付けてくださいよ。ニ風〈ツバイン〉」
沙耶が、そういうと優しい風が俺の背中を押してくれた。




