人助けしてみます
戦いが終わると、騎士たちは負傷者の手当と亡くなった者達を回収していた。
すると、先まで指示を出していた一人の騎士がこちらに近づいてきた。
「先の戦いでは、加勢感謝する。私はこの騎士の団長で、ルスク=サイフォンという。」
30代ぐらいのおっさんで、身体が大きくがたいが良い。正直、目の前に立たれると怖い。
ルクスは、何故か剣に手をかけており、感謝を言いながらもこちらを警戒しているのがよくわかる。
「俺は、キサラギ ユウだ。加勢のことは気にするな。たまたま、通りがかっただけだからな。」
ルクスは警戒を緩めずにこちらを睨んでくる。
感謝言ってもらってるはずなのに、そんな気がしないな。めっちゃ怖いじゃん。
「ユウか。君達は何者なんだ?」
それは聞かれると思てたよ。全く考えってなかったけどな。
どうしようか、召喚されてきました。なんて言ったら即座に叩き切られそうだ。
てか、剣から手を放してくれよ。まじで、いつ抜かれるわからん。
「そう聞かれてもな、ただの通りすがりの村人としか言いようがないな。」
適当に言いつくろってみたが、どうだろうか。
てか、さらに険しい顔してるじゃん。
くそ、後は流れに任せて答えるか。間違った答えをすれば、沙耶がフォローしてくれるだろう。
そう思い、隣にいる沙耶を見ると、騎士が守っていた馬車の方を見ていた。
フォローしてくれる気無さそうだな。
「聞き方が悪かったな。君たちはどこから来たんだ?」
「どこから、か。これも答えようがないな。」
ルクスが向けてくるのは、どこか疑うような視線だ。
「一処に留まらないで、いろんなところを転々としているんだ。」
「不明瞭な情報ばかりだな。」
「申訳ないな。どうにも胡散臭いもので。」
「その胡散臭い者が、人助けを行ったのか?」
「さっきも言った通り、通りがかったからな。見過ごせなかった。」
平然と態度を崩さず答えていると、横にいた沙耶がこちらを見ていた。
「嘘つきですね。」
俺だけにしか聞こえないような声で沙耶がポツリとつぶやいた。
ちょっと、今俺自分を褒めてやりたいぐらいにうまいこと答えれたよね。
それを壊す発言やめてくれますかね妹様は。
「そうですね、お兄ちゃんの言葉だけでは信用できませんか?」
さっきまで、黙っていた沙耶がルクスをまっすぐ見ていた。
「お兄ちゃんがあなた達を助けたのは事実です。それとも、助けてくれた相手に剣を向け敵対するつもりですか?お兄ちゃんなら相手してくれると思いますよ。命の補償はしませんが。」
そういいながら、沙耶はルクスを睨んだ。
「いや、君達と敵対するつもりはない。疑ってかかって申訳ない。だが、こちらもいろいろあってな。申訳ないが、身分証だけでも見せてはくれないか?」
すると、先ほどまで警戒心丸出しだったルクスが頭を下げた。
身分証ってこの世界ではなんのことを指すんだ。
「身分証とは何だ?」
こういう時は、素直に聞くのが早い。相手は、下手に出てくれているんだ。大丈夫だろう。
「身分証を知らないのか?各地にあるギルドで発行できる証明書のことだ。」
ルクスは驚いた顔でこちらを見てくる。
「ないな。今ままでギルドに行ったことはないし、森の中で暮らしていたんだ。初めて森を出てきたからな。」
嘘は言ってないな。森に召喚されて、森から初めて出てきた。
「森で暮らしてただと⁉魔獣が生息する森で人が生きてこれるなんて…」
ルクスはさらに驚き一人で考え込んでしまう。
「分かった。なら、一緒に王都までついてきてもらえないか?身分証もそこで発行すればいい。入門の際は、私たちが許可をする。色々話も聞きたいしな。助けてもらったお礼もする必要がある。」
ルクスは、考えが終わったのかこちらを見てきた。
どうしようかと沙耶を見ると、沙耶は軽く頷いただけだった。
沙耶も、この話は悪くないとは思ってるみたいだった。
「いいだろう。なら、王都までは俺たちも護衛として働かしてもらおう。」
「護衛にまでついてくれるとは、ありがたい。感謝する。」
そういって、ルクスはこちらに手を伸ばしてきた。
こちらにも握手の風習はあるのな。
その手を握りルクスを見つめ返した。
「お兄ちゃん、ホモですか。」
沙耶が呟いた一言に固まった。
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