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 それは、とても簡単な霊感テストだった。


 霊感の有無と強さが分かると、子供たちの間で流行った『遊び』の一つだ。


 信憑性は分からぬ。

 誰がはじめたのかも知らぬ。


 もとより我々には、その信憑性も確かさも必要なかった。

 ただのお遊びで、暇つぶしの一つに過ぎないのだから。



・その家は、出入り口が一つしかない。

・その家は、玄関を開けて左右に廊下が伸びる他には道がない。

・その家は、同じ間隔を置いて正方形の窓を持っている。



 ルールは簡単だ。出来るだけ鮮明に想像すること、そして……


【入室したのなら、必ず時計回りに進み玄関まで戻って、必ず外に出ること】


             ※※※


「まず廊下があったわ」

「でも印象的なのは、廊下の壁に並んだ小さな窓だよ」

「いや、窓は大きかった。そこから森が見えたもの」

「けれど出入り口は、やはり一つなのだ」


 幼い頃の、そんな会話を思い出した。


 それは好奇心でやってみた霊感テストだった。


 私達は目を閉じた暗闇の中で、全く同じ家を想像したと錯覚して騒いだ。想像する【家】の条件は決まっていて、想像物が統一された暗示のようなカラクリであったのだが、当時の幼い私達は、一時でもオカルト的な世界に足を踏み入れたような興奮を覚えたのだ。


 それを行った場所は、いつも通っていた寂れた公園だった。黄昏の濃い茜色が景色を染め上げていて、秋も始まっていないのにねっとりと手足に絡みつくような肌寒さがあった。


 だがはしゃいでいた我々の中で、一人だけ困惑している者がいた。

 彼は私達の反応を見て、ますます戸惑っているようだった。そして確認するように、こちらを窺いながらこう言ってきた。



「あそこに、誰かいたよ」



 君たちは見なかったのか。僕は、腕を掴まれたんだ……


 興奮の熱が、すうっと逃げて場を沈黙が支配した。

 しばらく経ってようやく、まさか、冗談は止せよ、と二人がどうにかといった様子の声を出した。私達の表情で『自分以外は誰もソレを見ていない』と察した彼の顔色が、途端に蒼白色に変わって、ぶるぶる震え始め「本当だよ」と口にしてくる。


「逃げられないって言われたんだ……。どういう事だろうか……?」


 そう言うと彼は、助けを求めるように我々を順に見た。

 照りつける茜色が、やけに陰りを帯びたおぞましいモノに感じられた。


 所詮お遊びのゲームだ。幽霊やオバケなんて、あるはずがないじゃないかと誰かが言った――でも私は、誰がそんなことを言ったのか覚えていない。


 コレは霊感の有無を判断できるという、ただのゲームでしかないはずなのだ。


 ただ、誰がそれを広めたのだったろうか?

 都会で流行ったらしいそれを、この田舎町に持ち込んで来たのは、誰だったか……?


 記憶を辿ろうとした我々は、不意に、一つの共通した違和感に小さく戦慄した。


 どうしてか、その場に集まった子供の数が、一人多いような気がした。


 しかし、どれほど考えてもよく分からぬ。

 我々の思考と視覚が、先程まで目を閉じていた暗闇にすっかり慣れて、チカチカしていたせいかもしれぬ。


 けれど怯えは伝染するかのようにして瞬く間に我々の間に広がり、すぐに強い恐怖へと変わった。



「怖い、帰ろう」



 とうとう、彼女が泣きそうな声を上げて、ここでもう帰ることになった。


 まず、ぶるぶると震えて特に怖がっていた彼をみんなで送り届けた。それから私達は、各々帰るためにしばらく夕日色に染まった川沿いを一緒に歩いたのだ。


 足を動かしていると、次第に私達の心は落ち着きだした。

 少し前に感じた恐怖は、やはり錯覚であったのだと結論付けられた。だって私達は、同じ条件のもと【家】を思い浮かべたのだ。それぞれが瞼の裏で見たという家の特徴が合致する可能性は高いし、その妄想と想像の中で他の何かを見る方がおかしいだろう。


 妄想したその家の中を、時計回りに進んだだけのことなのだ。紙や十円玉を用意してコックリさんをしたわけでもなく、道具を見て立てて凝った呪いの儀式をしたわけでもない。


 これはただの想像遊びだ。我々は、何も、怖いことなんてしていない。



「ばいばい、また明日ね」



 一人、二人、離れて行く。


 しかし、彼女が不意に、別れ際に私のシャツをつんと引き寄せて――

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