第9話 なつやすみ5(デート)
「ねえ、先輩。こんどの日曜日遊びにいきましょうよ」
夏休みも残るところあと2週間。わたしは先輩を誘う。
「はあ?どうして突然?」
「あたらしくできたカフェにいきたいんですけど、友達の予定が合わなくて。だから、先輩でもいいかな~なんて」
わたしは照れ隠しにうそをついた。
「なんだよ、それ」
先輩は不満げだ。
「いいじゃないですか。いきましょうよ~」
われながらあざとい。あざとすぎる。だが、まわりに女子はいない。チャンスだ。今しかない。
「せんぱいといっしょにあそびたいんですよ」
「うっ。わかったよ。しゃーないな」
「なら、金曜日。11時に駅前集合で。じゃあ、よろしくお願いします」
わたしは早口でまくし立てた。
そして、急いで先輩とわかれる。緊張した。まだ、ドキドキしている。
「ぼくねんじん」
わたしは夕暮れにむかってつぶやいた。金木犀の香りがわたしを包んでいた。
デートの日。昨日はワクワクしてあまりねむれなかった。予定よりも早く駅前についた。先輩は予定の10分前に来てくれた。服はふつう。本当に休日の高校生みたい。まあ高校生なんだけど。
目的のカフェへふたりで向かう。今度ある文化祭、顧問の愚痴、テストへの不安などすこしネガティブな話題が多かった。
「先輩、こうして並んでいると……」
「みなまでいうな」
「クッ」本当にガードが堅い。
「いいじゃないですか、モテない先輩が女の子と歩いているんですよ。幸せでしょ」
「ばーか」
「素直じゃないな、ほんと」
いつものお決まりもきまった。
そうこうしているうちに目的のカフェについた。まだ、開店したてなので、ひとがいっぱいだ。ギリギリ座ることができた。
アンティーク調なイスとテーブル。本当におしゃれだった。ふたりでプレートランチを頼む。わたしはハンバーグ。先輩はポークジンジャー。
お皿まで、おしゃれなご飯をふたりで食べる。とても幸せな時間だった。
「先輩は進路とかどうするんですか」
「地元の国立大志望。学費安いし」
「さすが頭いいですね」
「おまえは?」
「じつはまだ考え中です。そもそも文理選択にも悩んでいるし」
「ふーん」
「わたし、数学とか苦手で。確率とかもうチンプンカンプン」
「確率がいちばん楽しいだろ」
「意味わかんないですよ、先輩」
「おれはギャンブル漫画でおぼえた」
ふたり同時に笑い出す。
この雰囲気がたまらなく好きだ。
「なら、今度、数学教えてくださいね、先輩」しれっと次の約束をとりつけるわたしだった。
先輩と別れて数時間が経った。わたしは部屋で悶えていた。
もうすぐ、先輩と毎日会える。これだけで、もうすぐ、なつやすみが終了してしまうとの憂鬱感も吹っ飛んでしまう。2学期は文化祭だってある。あわよくば、ふたりでもっと仲良くなりたい。もし、さらにうまくいったなら、そのあと……。
(うわああああ)声にならない悲鳴をあげる。ゴロゴロとベッドを転がり回る。
はやく明日にならないかな。
「あんたなにやってるの、はやく寝なさい」お母さんが突然、部屋に入ってきて、叱られた。
恥ずかしかった。でも、幸せだった。
その幸せのドキドキが少しずつ苦しくなっていく。
「報われたい……」
思わず、本音がでてしまった。幸せなのに、どうしてこんなに苦しいのだろう。