番外編 ハッピーハロウィン
「こんにちは、先輩。トリックオアトリート!」
わたしは、部室の前に立つと、扉から出てきた先輩に向かってそう言った。
頭には、黒いとんがり帽子。
肩には、黒いマント。
手には、ほうき。
完全武装の魔女コスプレだ。
「お、おう」
先輩は、あきらかにたじろいでいる。
いつものわたしの大好きな先輩だった。
「なんですか、先輩。せっかく、彼女がかわいい魔女コスプレしているんですよ。なにか言うことはないんですか? このぼくねんじん」
扉を閉めて、わたしは、いつものようにからかう。
この時間は、部室にはわたしたちしかいないのだ。
すべては、計算通り。
先輩は、苦笑いしていた。参考書の横には茶色いお菓子のはこがあった。キャラメルを食べながら勉強していたようだ。いつもの風景。
でも、今日の先輩はいつもの先輩じゃなかった。
「なら、仕方がないな……」
彼は読んでいた参考書を閉じると、きゅうにわたしの腕を強く引いてきた。
バランスを崩すわたし。
いつのまにか、わたしは先輩の腕に包まれていた。
「えっ、先輩。どうしたの?」
わたしは軽いパニックになっていた。
「だから、トリックアンドトリート、だろ?」
そう言いながら、彼の顔がわたしに近づいてくる。
後ろの窓からさしこむ夕日のせいか、私たちの顔は真っ赤になっていた。
こうして、わたしたちは、短い間だが唇を交わした。
最高のいたずらだった。
「コスプレすごくかわいいぞ、似合ってる」
「あ、ありがとうございます……」
そう言って、先輩は笑った。
今日の先輩はいつもの先輩じゃなかったけど、わたしの大好きな彼だった。
わたしの口の中に、ほろ苦いキャラメルの香りが広がっていく……。