第16話 あざとい後輩
あの文化祭から2週間が経過した。
夕暮れの光が窓から差し込んでくる。今、わたしは先輩に数学を教えてもらっている。この前、夏休みに約束して以来、恒例となったイベントだ。部活が終わった後、15分から30分。短いが至福の時間。でも、今回だけはわたしはソワソワしていた。
もう、今日でこんな関係は終わりにする。文化祭で話すことができなかった、わたしたちの話をしよう。もう決心はついていた。
「よし、今日はこれくらいにして帰ろうぜ」
先輩がつぶやく。今しかない。わたしは覚悟をきめた。
「先輩。あと、ひとつだけいいですか?」
ゆっくりしたトーンでわたしは話しかける。
「うん?」
いつになく真剣なトーンで私はいった。
「今回は、この前みたいな友達の話じゃなくて、自分たちの話をしませんか?」
「自分たちの話……」
「そうです。わたしたちの話です。わたしたち自身の話です」
「先輩はわたしのことをどう思っているんですか?」
「……」
先輩は真剣な顔をしている。
「わたしは先輩のことが大好きです。だから、わたしは後輩という関係だけでは抑えることができなくなってしまいました。甘えたりするだけでもとても幸せなんです。でも、もう、それだけでは苦しいんです。わたしもこの関係が壊れるのがすごく怖いです。でも、先輩とならもっと幸せな関係にもなれると思うんです……。もっと特別なふたりだけの関係になりませんか」
正真正銘、人生ではじめての告白だった。それなのにわたしのこころは落ち着いていた。
そして、ふたりにはもう言葉は必要なかった。わたしの体は彼の大きな腕に包まれていたのだから。
それでも、わたしは続ける。言葉にしておかなければいけないことだったのだから。
「先輩、大好きです。ずっと、ずっと一緒にいてください」
先輩の腕の力が強くなる。少し苦しいけど、こころが満たされているという実感だけがそこにあった。
「ああ、おれも大好きだ。ずっと一緒にいよう」
これが、わたしが半年間待ち望んでいたひとことだった。わたしの、わたしたちのための言葉だった。わたしは、先輩にさらに強く抱き着いた。
「ありがとうございます。先輩、ほんとうに大好きです」