第14話 文化祭5
演劇部の「ロミオとジュリエット」は有名なシーンをむかえていた。
「あなたはどうしてロミオなの」というセリフが聞こえてくる。みんなは舞台に注目している。でも、わたしたちはそこがふたりだけの空間のように思っていた。
「……」先輩は黙ってしまってさっきの答えを教えてくれない。
「(今日もダメかな)」わたしはあきらめかけようとしていた。
「実は、おれも相談があるんだ」先輩はいきなり話しかけてきた。
「これはあくまで友達の話だ。クラスメイトから相談をうけてるんだ」先輩はどこかで聞いたようなことをいってきた。
「そいつは、後輩の女子と仲良くなったんだ。後輩が入学してから、いろいろ面倒をみてきてやっていたらしい」
「ハイ」わたしは無粋なツッコミを避けた。
「で、その後輩に懐かれたらしい。そいつは、なんというか距離感が近いやつらしい。それで、色々と遊びにいったりしているうちに、なんとなく気になりはじめてきたそうだ」
「そうなんですか」
「その相談というのが、クラスメイトはその後輩との関係で悩んでいるだ」
「関係ですか」
「そう、関係だ」
「どういうことですか?」
「その後輩は、人懐っこい感じの人でな。自分に恋心があるのか、それとも懐かれているだけなのかわからなくなってしまっているそうだ」
「なるほど」
「それで、気持ちをはっきりさせようかと悩んでいるだが、もし関係がうまくいった場合、いままでの仲良しコンビのままでいられるかどうかわからんだろ。それがたまらなく怖いんだよ」
先輩、本音が隠せてませんよ。そんなツッコミはふたりには不要だった。だって、お互いの心理はすでにわかっていたし、確信だってあった。ただ、それを遠回しに確認している儀式みたいなものなのだ。
「たしかに、それは怖いですね。いままでの居心地の良い関係が壊れてしまうかもしれないんですものね」
「そうだよな」
「でも、そのままの関係だって、きっと苦しくなってきますよ。わたしはそう思います」
「苦しくなる?」
「だって、そうじゃないですか。お互いの気持ちはわかっているのに、それを隠して現状維持なんて辛すぎますよ」
「そうだよな、ごめん」
「えっ?どうして先輩が謝るんですか?あくまで友達の話でしょ」
「そうなんだけど。おれさ……」
「お互いに面倒くさい友達をもって大変ですね」わたしはわざと、先輩のことばを聞かなかった。それは、いま聞くべき言葉ではないと思ったからだ。だって、これはわたしたちの友達の話なんだから。わたしたちの話ではないのだから。
「そうだな」
「そうですよ」
演劇を見ている間、いつの間にかふたりの手は花火の時と同じ状況になっていた。厳密にいうと、少しだけ違う。お互いの指同士が絡んでいたのだった。