芸術家疎西風香の淡い体験が三匹のヒトデを殺すまでのモノローグ+Δ
お疲れ様です。
2000文字弱。変な文章で申し訳ないです。
タイトル回収、伏線回収がキレイに決まると嬉しいですよね。
八月
都会の中心地、それも平日のランチタイムでありながら、《喫茶十色》の集客率は惨憺たるものだった。
半年前に開業したばかりで内装は真新しく、どの点においても充分な資金が注がれている。
オーナーは世界十ヶ国で経験を積み、まるで土産物のように七つのコンテストトロフィーを拾い集めてきた初老の女性。その領土を広げる戦闘狂のような生き様から、料理界のゼノビアとまで謳われていたという。
開業当初は噂が噂を呼び、都外からも多数の利用客、及びファンが押し寄せた。半年が経った今でも事ある毎に話題となり、少数の弟子と共に緩やかな老後生活を送っていた。
ーー緩やか、とはならなかった。
「退屈を嫌え」という理念を元に選び抜かれた料地は、周囲のビル群からの容赦ない反射光を受けた。そして利用客の車が熱で溶けるという騒ぎとなった。
加えて店内の敷地の大半は直射日光を受けるウッドデッキ仕様。ガーデンパラソルを以てしても熱中症患者の数は増え続けて、報道に取り上げられる大惨事となっていた。
以上の二つの理由から、夏場の客足は激減した。今では店の奥の日陰、それも物置のように押し込まれた数席にしか客は寄り付かず、利用客から早期の店舗改装が求められていた。
そんな、訳あって狭い空間のテーブルで、十人の客が犇めき合っていた。
その内約は、大学院生の男二人、ゲームプログラマーの男二人、外科医の男女、新米の警察官の男、検視官の女、主婦、スーツ姿の男。誰もが食事の手を止めて、会話に夢中になっていた。
院生の青年二人。テーブルには〈離婚〉というタイトルの小説がどんと座り、眼鏡の青年が賢顔で熱く語っている。この作品は直木賞を受賞したんだ、筆者は愛犬に俺と同じ名前を付けていたんだ、と。果てにはネット通販での購入まで強要していた。
「買え、読め。この本は貸さん。さぁネットで調べてみろ」
「分かったから落ち着けって静かに……。ええと名前は」
強要された側は渋顔でスマートフォンを起動し、音声認識機能〈shotoku〉に、小説の著者を検索させる。
「色川武大」
ゲームプログラマーの二人。凸凹ペアの背の高い方は携帯ゲーム機を握り、やがて毛虫を踏んだ顔で同志を睨めつけて、訊ねる。
「……これが完成品?」
低い方は得たり顔で「そうだとも!」と言ってのける。戦略性の向上、多数のデバッカー雇用など、続編に相応しい出来だと豪語した。
しかし、高身長の男は屈託顔をそのままに、〈グラフィック〉の粗悪さについて訊ねる。
「……このグラで?」
外科医の男女。双方とも若く、医師としての技術も相当なものだが、精神年齢は子と親の差があった。
「僕は守るヒーローになるんだ! メスは武器じゃない!」
「そう、ふうん……」
花顔の女性は面倒臭そうにあしらう。男性は語彙力ボロボロの剣、腕を掲げて、事成し顔でこう叫ぶ。
「外科の愛が人を守る!」
新米の警察官。彼は新調したスマートフォンに対し、先日の遅すぎる歓迎会について愚痴を溢していた。
「いや、ね。悪い人ではないんだけど、仲間意識高めようとかで闇鍋作るとか言い出してさ」
歓迎会は巡査部長の自宅で開かれ、新人数名は惨劇を恐れて溶けやすい食材を選んだという。
「でね? 出来上がった液体に部長が命名すんのよ」
期待を膨らませる電話相手に対し、警察官は仏頂顔で答える。
「巡査のスープ」
検視官の女。同じ組織の部下である巡査の話に肩持ち顔で耳を傾けていると、一件の電話がかかってきた。それに応答する。
「あい。食事中だけど。……えっ」
電話相手の報告に、思わずオウム返ししてしまう。
「死因出た?」
主婦。彼女は大汗を滴らせて麦茶を飲み干し、おしぼりでわしゃわしゃと顔面を拭う。ひぃひぃと鳴きながらシニア向けの携帯電話を手に取り、四半世紀の付き合いである夫へと電話をかけた。
「もしもし。あんたちょっと氷買ってきといて! 袋入りの、そう、違う小さめの。冷凍庫入らないでしょうに!」
罪人を目の前にしたような閻魔顔で、怒号を飛ばす。
「二キロの!」
スーツ姿の男。彼は臓器をひとつ無くしたような、今にも血を吐きそうな足取りで席に座る。そしてすぐに携帯電話を取り出し、〈上司〉の電話番号へとかけて、
「すみません、会社に戻れそうにないです。……ええ、はい、周知の通り、」
社内常識とまで揶揄された持病を、二つの意味の汗顔で伝える。
「痛風です……」
いろかわたけひろ
このぐらで
げかのあいがひとをまもる
じゅんさのすーぷ
しいんでた
にきろの
つうふうです
狭い空間の十人の会話。ほぼ一斉に放たれた七人の声を〈shotoku〉が拾い集めて、
文字通り、言葉を編み出した。
げいじゅつかうろにしふうかのあわいたいけんがさんひきのひとでをころすまでのものろーぐぷらすでるた
検索結果を表示し、こう訊ねる。
『お探しの小説はこちらでしょうか』
十人の声を聞く聖徳太子の逸話、ありますよね。
あれは神格化のためのでっちあげ、という説があるみたいで…。
今度はしっかり十人の言葉で挑戦してみたいなぁ