我が二代目ケータイへ
この作品を、私の二代目ケータイに捧げます。
キミを使ってここにアクセスすることも、もしかしたらこれで最後になるかもしれない――そう思って、これを書きます。
キミと出会ったのは、今から二年前の一月二日でしたね。高校入学を機に持ち始めた初代ケータイから、機種変更して出会ったのがキミでした。
あの頃の私は、ガラパゴスケータイにこだわっていました。スマートフォンを頑なに嫌っていたのです。LINEが何だ、アプリが何だ、ガラケーで充分だ――と。
だから、二代目もガラケーでとおしました。
初代と似たような機種がいい――それが私の望みでした。製造メーカーが変わると、どうしても違和感が拭えませんからね。メーカーの違う姉のケータイが、私にとっては不便だったこともありますし。
数ある色からピンクを選んだのは、初代もピンクだったからです。キミの方が少しだけ濃いピンクかもしれませんが……。色を大幅に変えると、まるで自分のじゃないみたいで、慣れるまで時間かかるでしょう? だから、似たような色を選びました。……店頭在庫にある色が少なかったから仕方なく――なんて理由じゃあないんですよ。
とにかくキミは、私の二代目ケータイとして、私の元に来ました。初めての機種変更だったし、とても楽しみにしていたんです。
でもね、キミは私にとって、不便なことの方が多かったんです。
まず、ボタンの反応速度が遅い。特に、クリアボタンの連打のとき、それが顕著に現れます。消すつもりじゃない文字も、一緒に消えてしまうのですから。それで何度イライラしたか……。
次に、コピーした文字が複数所持できないことも、私には不便でした。初代は、五つくらいは同時に所持できたのです。一個コピーして、別の文字をコピーしたとき、キミの場合は上書きされてしまいますね。それも、慣れるまではイライラの種でした。
他にも、メールで添付されたファイルの一部が見られなかったり、データが何もないときに警告音が鳴ったり、変換のときに思ったとおりにできなかったり――キミには、私にとって不便でイライラするところがありました。
何よりも、アプリができないことが、この数年孤立を感じる要因の一つになりました。大学の友人の話についていけず、同じ空間に複数人いながら独りのような、そんな感覚がついてまわりました。
わかっています。キミの所為ではないことくらい、わかっているはずなんです。頑なにスマートフォンを嫌った、私が悪いんです。でも、何かの所為にしなければ、私は落ち着かないんです。
キミには、当たり散らしてばかりいましたね。クソケータイだの、使えないだの、色々暴言を吐いてしまって、ごめんなさい。
でも、キミになって良かったことも確かにありました。
画像のズームができたのは、正直感動ものだったんですよ。初代にはない機能でしたから。
あとは、複数の機能を同時に使えることも。ネットを開いている途中で来たメールにも、一旦ブラウザを閉じなくても対応できるのですね。これも、初代にはありませんでした。
ワンセグはあまり使っていなかったけれど、大好きな天気予報コマーシャルを録画できたのは嬉しかったです。
あとは、あれですね、緊急速報メール。近隣の避難情報が知られるのは、少しだけ助かりました。音にはビックリしますけど。
キミは不便だった。けれど、便利なところも確かにあった。それが、今の私の気持ちです。
あと数時間後には、キミは私の手元から離れるでしょう。初代から数えて約五年――ガラケーにこだわり続けた私が、スマートフォンに変える決意をしました。
テンキーも、その他のボタンも、ケータイを折り曲げる感覚も、遠のいたものに変わるでしょう。それは、寂しく思います。
キミと過ごした二年は、私の思い出のつまった月日です。
すり減ったボタンも、ひび割れたバッテリーカバーも、塗装が剥げているところも。みんなみんな、キミと刻んだ日々の跡です。
丁寧に優しく扱えなくて、本当にごめんなさい。そして、二年間、こんな私の傍にいてくれて、ありがとう。