第1話 英雄の日常 PART2
「やっぱり香世が親父を呼んだのか…」
「そうしないと、英雄は起きないでしょ!」
少女――香世は呆れ顔で英雄を見つめていた。
「そもそも何でこっちのこと起こしにきたんだよ!学校違うだろ!」
「そっそれは…きょっ…今日は私が英雄の学校の監視役だからついでに起こしにいこうかなと思っただけよ!」
香世は頬を赤らめながら言い放った。
「はいはい、それはご苦労さんなこった」
英雄は煩わしく答えた。それに対して香世はプーと顔を膨らましていた。
「香世、何怒ってんだよ?」
「別に怒ってないし!」
そんな2人の会話の中に、
「英雄、分かってないな~」
正治がため息をつきながら英雄の肩を組み、
「香世ちゃんはな~監視役を口実に英雄に」
と話し始めたとき、香世が、
「『異能解除』」
その瞬間、正治の姿が忽然と消えた。
「無駄話をしてないで早く準備しなさい!遅刻するわよ!」
そう言うと、香世は部屋から出て行った。
英雄は支度を終え、外に出ると香世が玄関前で壁にもたれかかっていた。
2人はそのまま学校に向かって歩いた。
「今日は、しっかりと学校へ行くんだね」
「だって、前みたいに香世が出て行った後に家の鍵をかけて、学校をさぼろうとしても、異能で親父の幽霊を呼び出すんだろ」
「よく分かってるじゃん」
香世はニカッと笑った。
香世――藤崎香世。
目はつり目でショートカット。
背は女子にしては少し高め。
そして、彼女は死者の霊を呼び出す――過去精霊という異能をもつ異能者である。
正治――佐藤正治。
ツーブロックで男らしさが感じられる童顔な顔つき。
服の上からでは分かりにくいが鍛えられた身体。
彼は20世紀後半に起こった大規模な異能犯罪で命を落とした。そして、今では香世の異能でちょくちょく呼ばれている幽霊である。
「ところで香世。今日って授業でなんかあったっけ?」
英雄は当たり前のように聞いてきた。
「なんで英雄の学校の予定を私が知ってることになるのよ!」
「でも、知ってるんだろ?」
「英雄のことなら知ってるに決まってるじゃないの…」
香世は英雄と目を合わせず、視線をそらしながら言った。
英雄はそのしぐさに気にも留めず、
「幼馴染がいて本当に良かった~幼馴染って便利だよな」
そう楽観的に話していると、香世は小走りをして英雄の前に立つと、笑顔で、
「『過去精霊』」
すると、香世の後ろに武士のような格好をした軍勢が現れた。
「香世…えっ、ちょっと、どうした?」
英雄が驚きながら自分の足を一歩、二歩と後ろに移動させると、
「行け」
香世が冷たい声を放った瞬間、その軍勢は英雄に向かって襲ってきた。
「なんでだーーーーーーーー!!!」
英雄は全速力で逃げ…
「ぎゃぁぁぁぁーーーーーー!!!」
…きれず捕まった。