2−4
「お〜い朝だぞ! 明日香!」
只今俺は明日香の部屋の前。
あの、運命の日曜日の朝10時27分と言うのに、明日香は一向に起きてくる気配はない。
かれこれ、ここに居るのも20分ぐらいたつか…。
明日香の部屋に入ろうとノブに手を差し出したこともあった。
しかしここは明日香の部屋。女の子の部屋なのだ。
ここは礼儀として、何の了解もなしに入るのはいけない。
「明日香〜〜!」
ドンドンと戸を叩く。
諦めて呼び続けるのをやめようとも思った。
しかし、もし俺がほおっておいて時間が来てしまったら大惨事。
リビングや、靴等俺のものはどこかに隠さなくてはいけない。
それに俺の部屋に入れないようにもしなければならないのだ。
「お〜い、明日香起きろって!」
ドンドン戸を叩いていると玄関の扉が開くのが分かった。
「ただいまぁ!」
明日香の声だ。
「…何しているの風紀?」
明日香の戸の前でドンドン叩く形になっている俺を見て不思議になったのだろう。
「い、いやなんでもない」
もしかして俺、誰もいない部屋に呼びかけていたのか?
…恥ずかしい!!!!!
「風紀、これお昼ご飯の用意」
そう言われてビニール袋を渡された。
「おう…って違う! それも大事だけど、俺の所持品をどうにか隠さなくちゃいけないんだよ!」
「…風紀の部屋に隠せばいいじゃん?」
「お前なぁ…見られたらどうすんだよ」
「ん〜じゃあ見られないようにすればいい!」
そう言って、明日香は物置からガムテープを取り出した。
…まさか。
「これで風紀のドアを封鎖しよう!」
そういってガムテープをビリビリっと伸ばして、ビリッっと切った。
「っておいおい! ちょっとまて! まだやるのは早いって! しかもそのやり方…明らかに不自然じゃないか?」
「…それもそうだよね」
一応納得してくれたようだ。
あんなもん俺のドアに張られたら跡が残って嫌だからな。
溜息をつきながらなんとか俺が居ることを隠すことをしている俺。
明日香はご飯を作っている。
「よし! これでOK!」
自分のドアの前に立って頷く俺。
「どれどれ?」
と、言いながらパタパタ音を立ててこちらへ向かってくる。
「…へ?」
それがこの部屋を見た明日香の第一声だった。
「た、立ち入り禁止…。入った奴は私が殺すよ♪ って私のガムテープ作戦とそんなに変わらないじゃん!」
「はぁ? 何言ってんだよ? 明日香の『♪』は読者にも男子にも最強だぜ?」
「…まぁね」
いやいや認めるなよ。
「よし。まぁ箪笥も移動させて、俺の部屋に入れないようにしたからまぁOKか。」
「風紀どうやって出てきたのよ!」
「俺は、ベランダをつたって、隣に部屋に行って説明してこちらに戻ってきた」
そう、俺の部屋はベランダがついていて便利なのだ。
只今の時刻11時30分。
「うん。いい時間だな。ではでは今日はあくまでも俺は客だからな? 分かってるよな? 絶対にボロを出すんじゃないぞ?」
「分かっております! 風紀大佐」
「ではわしは…ってどんな乗りだよそれ!」
「あはははは。風紀面白い!!」
「はぁ…。まぁお友達を向かいに行って来るから」
「いってらっしゃ〜い」
そう言って明日香は俺に手を振る。
「いってきまぁ〜す。」
俺も手を振る。
よし! 学校の校門にレッツゴー!
テクテクと道を歩いていく俺。
今日はどうなるのかな?
明らかにバレたらヤバイ。
…すごく心臓がバクバク言っている。
明日香のO型的な性格とは違って、俺はA型的な性格。まぁA型なんですけどね。
あの無神経な親からこんな子が生まれるなんて信じられない。
溜息交じりで亮平と幸助を向かいに行く。
学校に着いたらそこには亮平と幸助二人ともがいた。
「あれ?お前ら早いな…」
「いやいや、お前が遅いんだって! 普通10分前に来るだろ?」
亮平が俺の元に近寄りながら言う。
その後に続いて幸助が言葉を放つ。
「それで、女子の姿が見えないが…?」
亮平も頷いている。
「まぁ、付いてこれば分かるさ。」
そう言って俺は来た道を戻る。
「本当に女子が居るんだろうなぁ?」
幸助がしつこく聞いてきた。
相当女が好きなんだろうな。
「あぁ。だって今から女子の家に行くから当たり前だろ?」
「え〜〜!? 女子の家? もしかして…あの明日香ちゃんの家?」
「ピンポーン」
俺は親指を出してグッとやった。
「あ、あの明日香ちゃんの…」
まぁ俺の家でもあるんだけどね…。
男三人虚しく道を歩く。
「男を家に呼ぶってことは…OKなんだよね?」
女好きの幸助が聞いてきた。
「…は? 何が?」
この俺には何がOKなのか理解できない。
「だから…エッチなこととか…。」
…エッチ?
「んごぉ! そんなわけないだろう!?」
「で、ですよね?」
ちょっと幸助が落ち込む姿が見られた。
あいつは…エロか?
幸助と出会って一ヶ月ちょい。
俺の中であいつはエロの一言でまとめられそうになってきた。
「…やけに亮平が静かだな?」
「え? 考え事してたから」
「へぇ〜。」
そのまま沈黙。
沈黙のまま1分足らずで明日香のマンションに着いた。
まぁ、俺の家でもあるのだが。
「こ、ここが明日香ちゃんの家…」
家の前でワクワクモードに入っている幸助が呟く。
亮平も早くしよう! というのが顔に出ている。
ピンポーン!
俺がインターフォンを押した。
「は〜い。」
明日香の可愛らしい声が聞えてきた。
「俺、風紀だけど」
「あがってぇ!」
そう機械の向こうから聞えたのでドアをガチャっと開ける。
俺たちが着いたときには、もう明日香の友達がいた。
「おじゃましま〜す」
一応、今は客人。
この程度の挨拶はしなくてはいけない。
後に続いて二人も「おじゃまします」と言いながら入ってきた。
「うわぁ…女の子っぽい家」
そう幸助が呟く。
そうか? 俺にはシンプルにしか見えないんだけど。
「沙希〜お皿とって!」
明日香はまだ料理をしているらしい。
沙希って言うのはあのコンビニであった友達か。
「はいはい〜」
と言いながら面倒くさそうに椅子から立ち、皿を取りにいく。
男子集団といえば、リビングの入り口で立ち往生。
これが、女と男の権力の差なのだろうか?
「ねぇ明日香〜。このお皿誰の?」
そう言って沙希が取り出したのは俺の皿。
明らかに男物だ。
「えっとそれは…」
明日香、躊躇するな!
「お、叔父さんの…」
…なんで叔父さん。
「そっか。じゃあ使っていいわね」
って沙希って言う子もなに納得してるんだよ!
「えっと、そこの男集団! そこらへんにでも座ってろ!」
沙希はそう言っていつも俺が愛用しているソファーに指を向けた。
「え? あぁ、はい」
亮平が返事をして俺たちはピシッとしながら座る。
「風紀! お茶とご飯を準備して!」
「はいはい」と俺はソファーから立ち、コップ6個と皿6枚出して、ご飯を盛る。
すると明日香の隣で沙希が喋っているのが聞えた。
「…ねぇ。風紀君ってすごいね」
「え? 何で?」
「だって、明日香の家のもの殆ど知っているじゃん。ほら、コップの位置とか、しゃもじの位置とか?」
*しゃもじ=ご飯を盛るもの
「まぁ…あそこらへんにあるのが普通なんじゃない?」
何とか誤魔化してくれたようだが、危なく皿を落とす所だった。
大丈夫か? 今日一日…。