9−7
「馬鹿ってなんだよ。馬鹿って」
俺は学校の校門前に一人残された状態でそう呟く。
赤い太陽も沈み、今は暗闇と化す。
満月が俺の目の先にうっすらと写っており、俺は何をするでもなくその場にたっている。
沙希の話を簡単に言うと、明日香がものすごく泣いているということだ。
俺が、凛に不意を突かれたせいで明日香が悲しんでる。
そう言いたいんだ。
だけど、もう一つ分かったことがある。
明日香の居場所。
沙希の家だ。
細かい所までは知らないが、多分…いや、絶対亮平に聞けば分かるだろう。
あいつの情報力は半端じゃない。
学年全員の家と電話番号、家族構成まで知っているだろう。
知らぬ間に、俺の手には現代の科学の発展を見せ付けている携帯電話というハイテクな物が握
られていた。
亮平に、沙希の住所を。
だけど、今の俺には明日香に合わす顔が無い。
一度告白されて、即答できなかった俺だ。
今、このまま行っても同じ結果になるだろう。
しかし、この状態のままで居るのは駄目ということも分かっている。
明日香を傷付けた事も分かっている。
だけど、どうやって前に進めばいいのか分からない。
俺は、明日香のことが女として好きなのかさえ分からない。
言い訳になるが、俺は女性恐怖症だ。
そんな俺が、女を好きになるということはもう無い。
と、思う。
だけど、明日香は別…のような気がする。
彼女が居なくなったらボロボロの俺になる。
「好き」が分からない。
これを好きというのなら、これを恋だというのなら、
俺は何をすればいい?
俺はどうすればいい?
携帯電話を開き、亮平に電話する。
彼に、相談するのは情けない。
分かってる。
だけど、一番の友達だ。
プルルルルと着信音が鳴る。
虚しすぎるほど、響き渡る。
友達さえも、俺のコールをとらなかった。
「亮平…何してんだよ、こんなときに」
何をするでもなく、俺は家へと足を進めた。
長い長い道のりだった。
ピリリリリリリリリ!
10時25分、いつも聞かない目覚まし時計が耳元で鳴る。
その目覚まし時計に手を伸ばし頭にあるポチを押す。
一度押すと止まるのだが、5分経つとまたなるという、ウザイ品物だ。
そのウザさが朝起きの秘訣なんだろう。
いつも通りではない、いつも通りで制服を着て家を出る。
明日香が居ない事がいつも通りではない。
明日香が居ない朝は厳しい。
いつもの明日香の笑顔が、妄想と化して幻覚を引き起こす。
いくらなんでも、今日は明日香が来るだろうと…。
やっぱり、学校への道は長く感じた。
部活は12時集合。
11時20分に特別教室に着いたのだが、どこかに遊びに行くのにも中途半端な時間だし、待つのも面倒だけど、結局待つことにした。
一人孤独に、教室で待つ。
昨日、明日香のことを考えすぎて、よく眠れなかったのも事実。
特別教室で、眠気が一気に襲ってきた。
腕を枕にして、机に伏せて眠りという安らぎに浸った。
「ふ……お…ろ!」
何かが聞える。
「ふう…お…ろ」
まだ聞える。
「風紀、起きろ!!」
そして、はっきりと聞えた。
「は、はい!」
俺は、一気に眠気が飛び、先ほどの声の持ち主である部長に顔を向けた。
「やっと、起きたか風紀野郎」
周りを見渡すともう、皆集まっている。
いや、訂正。
ほとんど集まっている。
一人を除いては。
隣には昨日、俺のコールを取らなかった亮平。
左にはいつも居るはずの明日香が居ないだけのこと。
ただ、それだけである。
「明日香は?」と、隣で暢気に聞いてくる亮平。
「お前でも知らないのか」
俺は冷たく言い放った。
「おいおい、昨日の電話のことで起こってるのか?」
俺は、無視する。
無視したい気分だった。
「ごめんって! あの時間は少し用事があってな」
言い訳にならない言い訳を亮平は言う。
「それで明日香は?」
俺は冷たい目で亮平を見た後、細かい事情を亮平に話した。
なにより情報が欲しいため。
言いふらされてもいい、明日香の居場所に対する情報が欲しかった。
「お前…馬鹿か」
最近聞いたことのあるような言葉を聞く。
「うるせぇ」
馬鹿なのは知っている。
だけど、もう終わってしまったことだ。
何をしても過去には戻れない。
「それにしても風紀。凛にやられたな」
「ですね」
短文で言い返す。
「それで、お前は何の情報が欲しいんだ?」
亮平がいきなり、本題に触れてきた。
さすが、これだけ一緒に居る事だけあって、俺の考えは分かってるんだな。
「沙希の住所を知りたい」
少し沈黙があったあと、亮平は「知ってどうする?」と聞いてきた。
「明日香に会いに行く」と、俺は正直に話した。
「会ってどうする?」
亮平のその言葉が俺にダメージを与えた。
そう、俺は明日香に会ってもどうしようもない。
何をすればいいのか分からない。
「それが、分かったら教えてやる」
今日、最初に会った亮平とは違う雰囲気を感じた。
何か重たい空気が。
これは、智也が発していた空気だった。
「俺は、誤解を解きたい」
亮平が俺の方を向いていないときにそういった。
亮平は俺の方を向かずに「何で?」と聞いて来る。
…なんで?
俺は何で明日香の誤解を解きたいのだ?
しばらく考えていると、「自分に素直になれ」と言う痛い言葉が聞えた。
読んでいただき、ありがとうございます。
次の話で、第一章は終わりとなります。