9−2
「よっしゃぁ、ビンゴ!」
俺は、悠太のクラスで雄叫びを上げている。
「ふ、風紀…すごすぎ」
係員である悠太は唖然の表情。
全部で9個の的がある、その的にボールを投げて当てるというゲームだ。
持ち玉は10球。
俺はノーミスで、全ての的を落としたのだ。
「風紀すご〜い!」
隣で俺の集中力を上げてくれた明日香がいる。
こいつが居なかったら、俺はこんな曲芸出来なかっただろう。
女の前ではいい格好を見せる。
これ、男の基本ね。
8ビンゴを取ると豪華景品のはずなんだが…。
これは、豪華といえるものであるのだろうか?
「あ、明日香これ俺からのプレゼント!」
貰った景品を明日香へ渡す。
「ありがとー!」
と、すごく喜んでいるのだが、直ぐその後に、
「え…」という言葉が。
「風紀コレって…?」
そう、その景品とは
「まぁ、どっからどう見ても、洗濯バサミだな」
「風紀が持って帰ってよ〜」
「はぁ…、分かったよ」
明日香は大量にある洗濯ばさみを俺に渡してくる。
因みに6ビンゴは図書券10000円分らしい。
俺は一歩、一歩、悠太の下へ歩み寄る。
「ゆ〜う〜た〜君! これ、10000円分の図書券と交換して欲しいなぁ〜」
少し笑みを作り、悠太に話しかける。
「風紀、洗濯ばさみを持って帰りな」
この可愛らしい笑顔を持った、悠太には負けるね。
高校1年生とは思えない顔立ち、愛らしい顔立ちの悠太は結構もてているという情報が亮平から入ってきた。
そのせいか、明日香の時と似た感じで、このクラスの客は女が結構多い。
明日香の場合は…男の客だったけど。
「風紀ぃぃぃぃぃ! 早く行こ〜よ!」
明日香は教室のドアの前で手招きをしている。
「はいはい…」
心の中で言うつもりが、ついつい声に出てしまった。
「何よぉ、その嫌そうな返事は」
「いやいや嫌じゃないよ、明日香ちゃん」
優しい笑みを作る俺。
その顔に免じてか許してくれた。
何気に2年生の教室の階に降りていくと、光雄先輩が。
「あっ光雄先輩…」
「……」
黙りこむ先輩。
「えっと…」
「何も言うなや」
そう言って、光雄先輩はその場を去っていった。
「ねぇ風紀…さっき光雄先輩、会話したよね!?」
いや、明日香そっちに驚くのか。
「俺は2度目」
「へ〜、関西弁なんだぁ…」
って、俺の話は無視かい!
「…じゃなくて、あの光雄先輩の格好は?」
俺が明日香に聞く。
「え? 確か、光雄先輩のクラスは女装フリーマーケットって書いてあったよ」
「そ、そうか」
だからあんな格好をしていたのか。
ビックリド○キー並みにビックリしたぞ。
「あっ!」
「ど、どうした風紀!?」
「写真撮っておけばよかった!」
明日香からの冷たい視線が俺に浴びせられる。
「っていうのは冗談でぇ…」
そんな熱々? トークをしていた俺たちに誰かが割り込んできた。
「実は冗談じゃねぇだろ」
「うん。実はね。…って何で亮平がここに居るんだ!?」
いつの間にか俺の隣に居た亮平。
「お前が悠太のクラスで、全部の的を落とした瞬間から一緒にいた」
亮平は自慢げにそう言う。
あんたは忍者ですか?
「あなたは忍者ですか? とか思っただろ?」
俺の心を勝手に読むのはこの人しかいない。
「龍先輩! 前から言ってるじゃないですか! 人の心を勝手に読まないでください!」
「心って言うか、顔に書いてあるから」
亮平はうんうんと頷いている。
明日香は、何処に書いてあるの? みたいな顔をしているし…。
「龍先輩の所は、何やっているんですか?」
亮平が、スポーツ的敬語を使って聞いた。
「俺たちは…なんだっけな? 忘れた」
龍先輩。
忘れた…は、ないでしょう。
「まぁ、4人で初の文化祭楽しんでこいよ」
「は〜い…って4人?」
固まる俺。
いや、多分この状況にいるのは明日香と、俺と、亮平だけのはず。
他に誰が?
「え? その後ろに居る子ってお前等の友達じゃねぇの?」
俺達3人は、朝鮮民主主義人民共和国も驚くタイミングのよさで、後ろを向いた。
「「「凛!」」」
「エヘ! ばれちゃったか〜。さすが龍先輩ですね」
凛は龍先輩にニコニコして話しかけている。
「って、何でお前が居るんだよ」
俺は凛に冷たく聞いた。
「何でって、私、風紀と一緒に居たかったし?」
「文末に『?』入れなくていいから」
またもや、エヘみたいな行動を取る凛。
はぁ、先が思いやられる。
そこで、見捨てることも出来ない俺達。
仕方なく、凛と共に今日一日行動した。