9−1
「いらっしゃいませぇ〜」
1年2組の中で複数の声が重なる。
約40人の1年2組は午前と午後を半分、半分で仕事をこなしている。
因みに、俺と、明日香と、凛と、幸助と、沙希は同じグループ。
そして、今は文化祭なのだ。
俺たちの文化祭は全部で4日。
木、金、土、日曜日と休日が二日も入っているという、この悪状況。
そのおかげか何かはさっぱりだが、次の週の月、火、水曜日が休みなのである。
今日は一日目、木曜日。
4日もあれば、グループは一日一日違うはずなのだが、さっきあげた4人は4日とも同じという。
男たちは厨房で料理を。女たちはウエイトレス、まぁ猫耳メイドってことだ。
今日の俺のグループは前半組み。
8時〜12時と、昼食時を外しているから人は少ないと予想していたのだが、それは全く違った。
全校生徒のアイドルでもある、計算違いの女が俺のグループに入っているわけで…。
カランカラン。
幸助が何故か買ってきた、教室のドアを開けるとなる鈴が鳴った。
「いらっしゃいませぇ〜」
厨房で、必死に働いている俺の耳にでも、彼女の声が聞えてきた。
「あら! 明日香ちゃんじゃない!! その服、似合ってるねぇ。そう言えば、風紀野郎と同じクラスじゃなかったっけ? あいつは?」
…。俺のことを風紀野郎と呼ぶ奴は、あいつしかいない。
訂正、あの人しかいない。
そう、部長だ。
「え…あ、風紀は今、厨房で頑張って働いていますよ」
学校一押しのスマイルで、明日香は部長に受け答えする。
部長が「ふ〜ん」と言っている間も、周りからは「明日香ちゃん! これ頼む〜」などの客からの注文が絶えない。さすがは人気者としか言いようが無いな。
「は、はい!」と答える明日香も大変そうだ。
1年2組は大混雑と、放送が流れたのはそのときだった。
「風紀野郎って何担当?」
部長が、近くのウエイトレスに聞く。
「ふ、風紀野郎ですか? あぁ、彼はクレープでしたっけ?」
また部長は「ふ〜ん」と言った。
大繁盛しているわけで、殆どの人が席待ち。
先ほど入ってきた部長も、席待ちなのだ。
「ねぇ、ここの責任者って誰?」
またもや、部長の声が聞えてきた。
先ほどのウエイトレスに聞いているようだ。
「山田幸助ですけど」
ウエイトレスがそう答えると、部長はニヤリと微笑を作り、
「呼んで」
と、一言。
俺の隣の隣の隣にいた幸助の顔が強張り、さっきまで部長と話していたウエイトレスが来た。
「女の人がお呼びです」と…。
幸助は恐る恐る、部長の下へと歩み寄る。
「な、何ですか部長?」
「クレープ一つ。まぁ風紀野郎のお任せで」
周りの人は沈黙。
「けど、やっぱりここは待ってもらわないと…」
幸助は少し言葉に力が無い感じがする。あの部長相手だ。強気に出れるわけが無い。
「私の言うことが聞けないの? 幸助君?」
必殺、悪魔の微笑みが幸助を捕らえた。
「ハイ〜〜〜!」
幸助が、キーキー吠えながら俺の近くへ寄ってきた。
「部長の命令だ。従え」
…部長に従うのはいいとして、俺はあんたに従うのが一番嫌いなんですが。
まぁ、部長を怒らすと怖そうだし…。
「お任せって言ってた」
親指だけを立てて、幸助のグットポーズ。
少し、顔に活力がない。それほど部長とのやりとりがきつかったのだろう。
「まぁ、いっか」
そう言って、風紀オリジナルクレープ、チョコとイチゴと、ヨーグルト和えを作った。
因みに、この風紀オリジナルクレープ、チョコとイチゴと、ヨーグルト和えは、未公開である。
だって、たった今考えたんだもの。
美味しいか、不味いかも分からないという優れものだ。
これを、凛に持たせ部長の所まで行かせた。
部長は満足した顔で、俺たちの猫耳メイドカフェを出て行った。
明日香は、何時になっても大変そうだ。
鼻血を出している男の割合は8割3分6厘も居たという情報だ。
あの服で、明日香の微笑を見たら…まぁ男ならそうなるだろうな。
分かるよその気持ち!
俺だって同士だから!
そして、仕事終了の12時がやってきた。
「はい、交代です〜!」
と、一番忙しい時に交代をさせる幸助。
明日香が、着替える部屋に入っていくと、客足は殆ど途絶え、席待ちなんて無くなったと言う。
俺も着替えて、外へ行く。
文化祭の一番の楽しみが、他のクラスの行事を見ることだ。
早速、一人で行こうとする俺を、呼ぶ声が後ろのほうから聞えた。
「風紀〜〜!」
後ろを振り向くと、明日香の姿が。
「何?」
質問をすると、明日香は頬をポリポリと掻きながら、
「一緒に行動しようよ」
と、最高の照れ笑いを見せた。
学校一美人と共に行動しようといわれて、拒否する奴はそう居ない。
「おう」
と俺は、了知した。
「何処行きますか?」
明日香にそう質問されて、戸惑う。
…さて、どうする?
どうする?
どうする俺!
って、どっかのCMの真似をしてみたり…。
「何してるの?」
と明日香に不思議そうな顔をされたが、まぁ放っておこう。
「それで、何処行く風紀?」
…何処にしましょうか。
亮平のクラスは、『笑うの堪えて』だったような気がするし、
悠太のクラスは、ストラックアウトだっけ?
先輩達のクラスは何やっているか忘れた。
「風紀?」
質問攻めだ。
「ど、どうするア・イ・○・ル〜♪」
「私、アイ○ルじゃないよぉ!」
もぉ〜、と言いながらも笑ってくれる明日香。
いい奴ですね本当に。
俺はどうしてか、笑みがこぼれた。
読んでいただき、ありがとうございます。
本日は一話だけの更新とさせていただきました。
申し訳ございません。