8−1
「今更ですが、話し合いをしたいと思います」
文化委員である幸助が教室の前に立ってそう言った。
何を? という話だと思うが、今俺たちは文化祭でする発表行事を考えている。
「一年生ということもあって、最初はどんな事をするか分からないですよね?」
皆、一斉に頷く。
「展示という手もあるんですけど、やっぱ出店とかがいいよね?」
皆、一斉に再び頷いた。
「で、何がいいか、アンケートをとりたいと思います。今から回す紙に、何がいいか書いてください」
言い終えると、幸助は紙を配りだした。
ん〜、何にしよう。
漫画喫茶?
…本とか持ってくるのが、面倒だな。
ふと、隣にいる明日香の紙を覗き込む。
「…へ?」
小さな声が、俺の口からポロっとこぼれた。
何故か?
だって、明日香の紙には、猫耳メイドカフェ
そう書いてあるんだもの。
何故、そんなものを書いたのかは不思議だが…明日香のメイド姿。
考えていると、頬の肉がたるんだ。
って、何を妄想してんだ、俺。
まぁ、明日香のその格好をしているところを見たいし、俺も猫耳メイドカフェと。
「では、後ろから紙を集めてきてくださ〜い」
幸助が俺が書き終えた時間を見計らったかのようにそういった。
「では、読んでいきまぁす! 映画、喫茶店、コスプレ喫茶、ドリンクバー、ストラックアウト…猫耳メイドカフェ、じゃんけん大会…猫耳メイドカフェ…」
まわりもザワザワしている。
一番多い漫画喫茶と、猫耳メイドカフェが3票ずつ。
まぁ、後一票は誰が入れたというのは置いといて、多数決ということになった。
幸助が皆を机に伏せさせ、どちらがいいか手を上げようと命じた。
「漫画喫茶がいい人!」
バッと言う音が近くから聞えてきた。
7秒後に、「はい下ろして結構です」という声が聞えた。
「猫耳メイドカフェがいい人!」
俺はゆっくり手を上げた。
「はい、下ろして結構です」
早っ!
俺が手を上げてからコンマ2秒ぐらいだろう。
まぁ、数える秒数を考えて、漫画喫茶に決定のようだ。
そう思い、俺は顔を上げた。
前の黒板に書いてあったのは、
漫画喫茶1人。猫耳メイドカフェその他。
おお! 猫耳メイドカフェだぁ。
って、ちょっと待てぇ!
一人数えるのに、7秒ぐらいも掛かったのか?
幸助の目はもう老化している…のか?
「というわけで、猫耳メイドカフェに決定です! 拍手〜!」
パチパチパチと喝采が沸いた。
「やっぱり、女の子がメイドするってことでいいよね?」
男共が大拍手。
やっぱり、明日香のメイド姿。
見たいな〜!
…いかん、いかん。
エロ親父になる所だった。
実はエロ親父になるのに、時間は掛からなかったりするわけだが。
そんなことはどうでもいい。
明日香の猫耳メイド。
萌え〜〜〜!
って、何を言わしているんだ。
「どうしたの風紀?」
隣にいる明日香が俺に話しかけてきた。
その顔を見ると、一瞬猫耳メイド姿の明日香を妄想。
ブッッッ!
鼻血が、たらぁと出てきた。
「だ、大丈夫!? 誰かティッシュ持ってない?」
明日香が俺を心配して、周りを走り回ってる。
「風紀君が持ってるんじゃない? 名前が風紀だし?」
沙希がそういった。
「名前は関係ない。それに、風紀は持ってないよ。沙希持ってないの?」
「うん。持ってない」
「誰か持ってない〜?」
大きな声で叫ぶ明日香。
もう少し声のトーンを下げても宜しいのではないかと。
と言うか、その前に明日香。
「お〜い、明日香!」
俺が明日香を呼ぶ。
しかし、明日香には俺の声が届いていないらしい。
「明日香〜!」
ピクッと一瞬反応した明日香だったが、そのまま俺を無視したのだ。
「明日香ちゃぁぁん」
少し俺の声のトーンが落ちる。
「な、何!?」
やっと気付いてくれたようだ。
「も、もう止まったから大丈夫」
みんなの視線が俺に集まる。
い、いや、そんな目で見られても困るんですけど。
何でそんなに早いんだ? 見たいな目をして。
まぁ、俺の過去にも色々あるのさ。
「そっか…よ、よかった!」
アハハと言いながら、明日香は自分の席に戻った。
「ありがと。明日香」
優しい声で俺はそういった。
まぁ、これが常識というものだろう。
やはり明日香はいつものように照れているようだが。
そこが、可愛くてしょうがない。
「では、誰が買い物しに行くか決めたいと思います!」
は〜いという声が教室のあちらこちらから聞えた。
「まぁ、文化委員である俺も参加しますから、安心してください! 男女一人ずつということで」
また、は〜いという声があちらこちらから聞えた。
その数十秒後。
「では、明日香ちゃんと風紀に決定で」
またまた、教室のあちらこちらから、は〜いという声が聞えた。
…マジですか。
『何で俺が!?』と言える訳もなく、「ぅ〜」と唸りながら俺は机に伏せた。