7−2
部活も、いつも通り過ぎていった。
何事もなく、過ぎていった。
映画鑑賞もいつものように見ずに帰ろうと下駄箱に向かっているときだった。
「風紀〜! 早く」
明日香の声が下駄箱の方面から聞えてくる。
「ご、ごめん! 明日香…忘れ物したから! 先、行っててくれ」
今、出来るだけの声で明日香にそう言った。
「わかった〜」
明日香は俺が今、事件に巻き込まれていることは知らないだろう。
「風紀…」
凛の声が俺の後方から、静かに聞えてきた。
部活が終わり、俺は明日香と帰るため、特別棟の前で明日香の帰る準備が終わるのを待っていた。すると、横から聞き覚えのある声が耳に入ったのだ。
「風紀、下で待ってるから」
と。
その声は確かに、俺の知っている声。
凛の声だった。
幻か? と思ったのだが、実際明日香と一緒に下に行ってみると凛がいた。
その場で止まってしまった俺。
明日香は、俺が止まっていることに気付かず歩いて行った。
「なんだよ凛」
早いうちに、決着をつけなくてはいけない。
あの日の思い出と。
この気持ちと。
今、吐き気もする。
鳥肌も立っている、胸が苦しい、怖い、逃げたい…。
「私ね…あの時の事、後悔してるんだ」
・・・何が言いたいんだよ、お前は。
「俺は、もう未練はないから」
そう言って、その場を立ち去ろうとした。
「私は!」
凛の大きな声が俺の耳に届いた。
「私は…まだ…」
まだ?
何なんだよ。
お前は、智也が好きで、俺のことはどうでも良くてあんな事をしたのだろう。
分かってるよ、それぐらい。
だから、俺はお前らを邪魔しないように今まで過ごしてきたんじゃないか。
なのに、智也とあの後別れて。
意味わかんねぇよ。
「まだ…好きなの」
誰をだよ。
智也だろ?
俺じゃないだろ?
おれ自身、本当は分かってる次の言葉を待つまでの間、無言の時間が続いた。
「まだ、風紀のことが好きなの!」
…。
俺は、もう…好きじゃない。
お前の事なんか、好きじゃない!
「だから、どうした」
冷たく言い放った。
「だから…私ともう一度…」
「……」
「付き合って欲しいの」
付き合う? 俺とお前がか?
一度、あんな裏切りをやられて、俺がもう一度お前と付き合うだと?
「ふざけんな」
「ふざけてなんかない! 私はまだ風紀のことが好きなの!」
あのときの残酷な風景が思い浮かんでくる。
もう、あんな思いはしたくない。
本当は、お前とも会いたくなかった。
お前の顔なんて、一生見たくなかった!
心が…痛んだ。
あんな思い、一生ごめんだ。
「風紀!!!!」
遠くの方から、明日香の声がする。
「風紀!!!!」
ほら、また明日香の声が。
バンっと体に衝撃が走る。
「…明日香ぁ!?」
衝撃の5秒後に俺はそう言った。
そのときに、抱きつかられていることに気づく。
頭がくらくらする。
必死に俺は明日香の体を俺から離した。
「ど、どうしたんだよ?」
俺の言葉に泣きながら、首を横に振る明日香。
何で、この状況で俺に抱きついたんだ、お前は。
「す…す…す…」
…す?
「すっごいよ! 下駄箱の中に、変なのが入ってるのぉ!!! すっごい怖いんだから!」
…は?
「ねぇねぇ、来て! これ、やばいって!」
そう言いながら、また明日香は俺の手に触れる。
グヒョォォォォ。
明日香に触れられていることを我慢しながら、明日香の下駄箱の前まで連れて行かれた。
「…なんだコレ」
明日香が驚くのも無理は無い。
男性からと思われる手紙が、下駄箱の外にまで漏れ出しているのだ。
「いつも、こんなんなのか?」
明日香は一生懸命首を横に振る。
「いつもはもっと少ないよ!!!」
もっと少ない=いつも入ってるのか。
「お前、可愛いからな。しょうがないよ。今更気にするな」
すると、横からボン! と何かが破裂した音が聞えた。
それは、明日香方面であり、その明日香本人なのだ。
「どうした?」
顔が真っ赤になっている。
「…まさか、照れてるんじゃないよな?」
さっきより、明日香の顔が赤くなった。
クククク。
これは面白いな。
「風紀…」
後ろのほうから声が掛かった。
「何?」
と言いながら勢いよく後ろを向く。
…凛。
やっべ、存在を忘れてた。
「諦めないから!」
そう言って、凛はその場から立ち去っていった。
その凛の姿を明日香が見ると、「どうしたの?」って聞いてきた。
俺は笑顔で「何も」と答えておいた。
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本日も2話更新となりました。
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