6−2
風紀が、この教室から姿を消した。
担任の小百合先生が入ってくるなり出て行った。
…先生が原因ではないだろう。
多分、この生徒が原因なんだ。
美人。
その言葉が似合うような顔持ち。
私は、その子をじっと見ていた。
「ねぇねぇ」
その子が私の方を向き、何か聞きたそうな声…いや、発言をしている。
「さっきの、風紀…香坂君だよね?」
「はい」
初対面の人にタメ語とは何事だ〜!
「付き合ってるの?」
「付き合ってないですけど」
「そっかぁ」と呟き、その生徒は廊下を見た。
風紀を探しているのだろう。
先生が先ほどの話をまた話題に持ってくる。
「けどねぇ、香坂と明日香ちゃんって仲いいんだよ?」
クラスの自慢のように話す先生。
「そういえばまだ紹介してなかったわね。こちらが、今日から転校してくることになった、木村 凛さん。明日香ちゃん仲良くしてあげてね!」
ウッフッフ〜ン♪ と言わんばかりのテンションで私に話しかけてくる。
「は、はぁ・・・」
溜息なのか、返事なのかよく分からない声を出してしまった。
時は過ぎる。
今の時間は8時38分を示している。
未だに隣にいるはずの風紀が戻ってこない。
凛って言う人は、担任室で待つように言われたらしい。
沙希はいつも通りの雰囲気。
そういえば、夏休みも3回しか遊ばなかった。
今更、後悔。
皆も、久しぶりに会えた嬉しさなのか、夏休みに入る前とは全く違う雰囲気。
「どうしたの、明日香?」
ふと、沙希の顔が私の視界全体に入る。
「ううん。何も無いよぉ」
エヘヘと笑って誤魔化した。
その笑いと共に、チャイムが鳴る。
結局…風紀は戻ってこなかった。
先生が来ると同時に、皆は自分の席に戻る。
ガラッとドアが開く音。
それから3秒後には「おぉぉぉ!」と男子の声が聞えてきた。
委員長が「起立! 礼!」といい、一日が始まる。
「え〜と、この人は木村 凛さん。親の用事があって、転入してきました。じゃあ、凛さん何か自己紹介を。何でもいいわよ。好きな子でも、好きな部分でも」
好きな子…好きな部分を紹介してどうするんですか先生。
って! 好きな部分って…え? どういう意味ですか!!
「え、え〜と。この学校のある一部の人とは知り合いです。例えば…香坂君とか」
そのとき、クラスからはザワザワとした声が聞える。
先生の「しっ!」と言う言葉と同時にシ〜ンとなった。
「これからよろしくお願いします!」
ペコッと頭を下げて誰から見ても可愛い挨拶の終わり方。
先生は、凛さんの席を一番後ろの右から2番目の席を指定した。
そんなことよりも、風紀が心配だ。
ホームルームも終了し、先生に風紀の居場所を聞いた。
保健室。
私は次の授業に間に合わないと思うが、保健室へと走った。
…ぅぅ。
直ぐ息が切れる。
1階に着く頃にはもうばてていた。
保健室のドアを開く。
「こんにちは…」
今にも倒れそうな声を出す私。
恥ずかしい〜!
「明日香ちゃん! 今…ちょっと取り込んでて」
いつも保健室に遊びに行くと居る先生が、私に中を見せないようにして外へ追い出してきた。
「ど、ど、どうしたんですか?」
「あのね今、中に香坂君が居るんだけど、何か様子が変なの」
「風紀が…ですか?」
先生は頷き、「もう家に帰すつもり」と言って教室に戻るようにと促した。
私は、保健室の前で立ち往生。
「風紀大丈夫なのかなぁ」
そう呟いた後、私は一限目の授業をする場所に向かった。
その日一日。
とてもつまらなかった。
いつも私の視界にいた風紀がいない。
そんな寂しいことは今あって、現状にあって…。
心に穴が開いた感じがしたんだ。
下駄箱に向かう。
下駄箱を開き、靴を取り出す。
毎日のように入っている手紙。
まず、名前を見て誰かわからない。
そういうものは捨てろと親に教えられた。
ゴミ箱にそれを捨て、いつもより歩幅を広げ、歩くスピードを2倍にする。
風紀に会いたい。
その一心で。
自分の家に着く。
右手でゆっくりとドアノブに手を掛け、ドアを開ける。
「ただいまぁ!」
シ〜ン。
…。
シ〜ンって何なんですかシ〜ンって。
風紀のドアを開ける。
「風紀!」
…誰も居ない。
家の中を探し続ける。
「…風紀」
すごく寂しい気がした。
気がつけば、手に携帯を握っている。
亮平君なら何か知ってるだろう。
アドレス帳を開き、亮平君に電話する。
「はい、もしもし?」
亮平君の声だ。
「りょ、亮平君! 風紀の居場所知らない?」
しばらく沈黙。
「ん〜、知らないな。何かあったの?」
「家に帰ったら見つからなくて」
「まぁ…そのうち帰ってくるだろうから、家の中で待っていてよ」
「うん」
「じゃ」
プープープーと携帯の悲しい音が流れる。
家の中で待っていてって言われてもそんなに待てないよ。
自分の部屋に行き、私はベットにドシッと倒れた。
風紀の元彼女の凛って言う人。
美人だった…。
風紀は過去に何があったのだろうか。
風紀の力になりたい。
そう考えても埒が明かなかった。
…私は涙を流した。
力になれなくて。