5−4
「うわぁ…綺麗」
明日香が雰囲気が良くて見晴らしがいい場所に着いた。
そこから見える景色は綺麗で。
明日香と一緒にいると余計綺麗に見えるような気がするのも事実。
「ねぇねぇ! 風紀ここに座って!」
明日香が地べたに座って、隣をベシベシと叩いている。
俺は拒否できるわけもなく、頷いた。
「風紀。ここ眺めいいよね」
「うん」
俺たちが見ている光景は海の果てまで見えそうなところ。
ほとんど、邪魔をする障害物も無い。
まさにこれが『見晴らしがいい』というものなのだ。
それに、ここで明日香と二人で座ってると…。
ロマンチックな感じになってしまう。
まさにこれが『雰囲気がいい場所』というものなのだ。
明日香を横目でチラッと見る。
可愛くて、一途で…。
明日香ほどいい奴はそうそういないよな。
「私、風紀がいてくれてよかったよ」
…へ?
何を言い出すんだ明日香。
「今更何を…」
「本当に…よかったと思ってるよ」
エヘ! と笑みを作って、俺の方を向く。
その笑顔が一瞬悲しげにも見えた。
このまま、どこかに行ってしまいそうな…。
「どうしたんだよ、明日香」
「ううん。何にもないよ」
風が吹く。
ゆっくり、ゆっくりとした風が吹く。
その風は俺たちを通り過ぎて、また新しい障害物へとぶつかるのだろう。
「何があったんだ?」
明日香の様子がおかしい。
明らかに今までとは違う…雰囲気。
「何にもないって! だってここにいると本音を言ってしまうような…感じだよね」
エヘヘと今度は笑った。
そして、明日香は無言で立つ。
俺はそれに続いてたった。
先を歩く明日香。
その後をとぼとぼとついて行く。
無言。
その雰囲気が俺は嫌だ。
嫌だけど、それを変えられるような俺じゃない。
その時、明日香がふと呟いた。
「…ねぇ、何処に向かってるの?」
何処って…。
明日香が先を歩いていたから俺はその後をついていっただけなんだけど。
「何処だろう?」
「もしや、私達…迷子?」
頷く俺。
「そりゃ、あのときから迷っていたからな」
「どうするのぉ? 私ここで死にたく無い!」
「…多分死なないと思うから大丈夫」
「そっか」
…まぁ、そんな会話をしてても俺たちの状況は発展しないわけで。
さぁ、どうする?
部長に電話?
いや、部長に電話した所で何も変わらないと思う。
じゃあ誰かに太陽壮の場所を聞くか。
と思ったものの、人が通りそうな雰囲気も無い。
「はぁ…」
と大きな溜息をついて歩き出す。
行く道は決まっていないが、目的ならある。
人を発見する!
うん。
大丈夫だ、俺。
「風紀何処行くの〜?」
明日香がタッタッタと走って俺の横につく。
「人探し」
そう呟き、キョロキョロとする。
右、人…0人。
左、人…明日香が1人。
後方、人…0人。
前方、人…1人。
おぉ! 人発見!
「すみません!」
と言って、俺はその人に近づいた。
徐々に近づいていくと顔がはっきりしていく。
ん…?
「部長!」
「あら、明日香ちゃん! それと風紀」
…その言い方は変わらないのですね。
「部長ぉ…太陽壮の場所が分からないんです」
明日香はもじもじしながらそういった。
先輩はそこの角を指差し、「そこの道」とだけ言った。
「有難うございます」
明日香が丁寧に頭を下げて、その方向へ足を運ぶ。
…意外とすんなり行ったな。
ドラマなら、夜になるまで探すというパターンなのに…。
すんなりと行きすぎだな…こりゃ。