5−2
「さぁ何処行く?」
明日香が外に出て20歩ぐらい歩いてからそう呟いた。
「え?」
「だから何処行く?」
…何処行くってまさか明日香。
「お前、何処行くか決まっていなかったのに、小母さん探しに行こうなんていってたのか?」
すごくゆっくりと頭を上下に動かしている。
「本当かよ…」
その上下運動は止まらない。
「じゃあ…何処行きますかね」
「まぁ、まず雰囲気のいい小母さん探そうよ」
「…当たり前だ」
「で、何処行く?」
だから、さっきからそれ話しているんだろうが。
「じゃあ、旅館の小母さんに最初聞くか」
さっきの頭の上下運動より、少しスピードが速くなって、頷いている。
来た道を戻って、靴からスリッパに履きなおし、旅館のおばさんが居る場所に向かった。
…ん?
ちょっと待て。
旅館のおばさんなんて何処にいるんだ?
「風紀ぃ〜、こっちこっちぃ」
明日香が手招きをしている。
「え? そっちなの?」
「らしいよ!」
…何処の誰に聞いたんだ?
明日香の居る方向に歩いていって、そこからは明日香任せ。
明日香が右に曲がれば右に。
明日香が左に曲がれば左に。
明日香が回れば俺も回る。
って…。
「明日香ふざけてんじゃないぞ?」
「だってぇ、風紀が私と同じ所歩くんだもん。面白いじゃん」
ヘヘヘと笑いながらまた一回くるっと回った。
「あぁ! あった。あった」
あの明日香が小母さんがいそうな場所を発見してくれた。
中のこっそり覗くと、休憩しているおばさんを発見!
お仲間さん達とワイワイ話している。
やっぱり、商売の顔とは違うんだな。
その時、後ろから冷たい視線が感じられた。
ゆっくりと俺は後ろを向く。
「…はい?」
「…はい? って、言われてもね。風紀は何しているの?」
部長だった。
「あ、えっと。雰囲気のいい小母さんを発見したのですよ」
「あら、雰囲気のいい小母さんを引いたのは風紀だったんだね」
「そうですよ?」
「いや、そこに疑問の記号はいらないわよ」
「はいはい。それで今からあの人にアタックしようと思って」
「アタックするって言っても、明日香ちゃんがあそこに…」
「ん?」
俺は部長が指を指す方向に目を向ける。
その視線の先には、あの小母さんと愉快な仲間達の中で一緒に喋っている明日香。
これは俺もすぐさま行かなくては。
「では先輩また後で。…おい明日香!」
できるだけ小さな声でその中に入る。
「あっ、小母様たちあれが風紀です」
俺の方に明日香が指を指す。
…え? 小母様? と言うか、あれって言い方はよろしくないのでは?
少々キレ気味のこの気持ちを落ち着かせて明日香の元に駆け寄る。
一応小母さんと言っても女だ。
女は苦手。アンダースタン?
「君が風紀?」
いやいや、初めて会った人に呼び捨てで呼ばれるのは良い方に考えられないのですが…。
「は、はい。そうですけど」
この小母さん達は何者だ?
明日香…この短時間に俺のことをなんと話したんだ。
「私、別に出てもいいわよ」
なんと俺たちが狙っていた小母さんがOKコール。
「その代わり、女将に聞いてみないと分からないけど」
「いいんですか!?」
「まぁ、女将さんがいいと言ったならね」
おぉ。やった。
さすが明日香。時には役に立つな。
「あっ、女将さ〜ん!」
小母さんが俺の後ろにいる人物を呼んだ。
いかにも女将さんって感じだな。
「この子達がね、映画に出て欲しいって言うのよ。出てもいいですか?」
女将さんは3秒ほど考えた後
「駄目」
という言葉を投げ返してきた。
「な、何でですか?」
俺はこの人をGETしなければならない。
でないとノルマ達成できないのだ。
…殺される。
俺のノルマ達成できなかったときの映像が頭に浮かんだ。
さ、寒気が。
「私が出る」
女将さんは商売の笑みを作ってそういった。
「「「「「「本気ですか?」」」」」」」
みんなの声がはもった。
「本気ですもの」
…一同沈黙。
まぁ子の人に逆らえるわけもなく「宜しくお願いします」といってその場を去った。
さぁ次は雰囲気のいい場所で見晴らしが居場所か。
この自然の中だと、何処を見渡してもありそうだよな。
俺は明日香に「行くぞ」と言って足を運ばせた。